美術館ニュース

2011年10月20日

ロートレック展の開幕にあたり

ロートレック展の開幕にあたり、フランス・アルビのドゥヴァンク館長をはじめ関係者が集まり開会式が行われました。それ際し、館長の高橋も皆さまにご挨拶申し上げたものを纏めましたのでご高覧ください。
【トゥールーズ=ロートレック展開会に際して】
高橋明也
今回のトゥールーズ=ロートレック展は、三菱一号館美術館が所蔵するロートレックの作品群をはじめて皆様にお見せする機会であると同時に、コレクションを通じて姉妹館となったアルビのトゥールーズ=ロートレック美術館との共同作業を記念する最初の展覧会でもあります。
美術館の性格というものはコレクションの存在によって決定付けられると言っても過言ではないくらい、コレクションというものはひとつの美術館の顔であり心臓でもあります。世界的にもみても評価の高い美術館は必ずといっていいほど個性的で質の高いコレクションが中核となって発展しています。
例えば、その良い例のひとつが、ドゥヴァンク館長率いるアルビのトゥールーズ=ロートレック美術館です。人口僅か5万人ほどの小さな町であるにも関らず、世界中から観光客が訪れ、世界遺産にも指定されたこの町の魅力の大変大きな部分をこの美術館が担っている理由はひとえに、ロートレックの没後にこの画家の残した芸術を後世に伝えようとした無二の親友モーリス・ジョワイヤンや、画家の両親、友人たちの心によって形作られた作品コレクションが類稀な魅力を放っているからに他なりません。
この展覧会の最後には、ささやかですがロートレック美術館を紹介するコーナーも設けてあります。そこに掲載された記録写真を見ていただければ分かるように、故ミッテラン・フランス共和国大統領や俳優のジャン=ポール・ベルモンドをはじめ、イギリスの皇太后、そして我が国の天皇・皇后陛下ご夫妻など、各国のVIPたちもこぞって訪れるような魅力がこの美術館にはあります。

そしてその親友ジョワイヤンが所持していた画家自身のコレクションという、きわめて正統的で輝かしい経歴をもつのが私たちの三菱一号館美術館のロートレックのグラフィック作品コレクションなのです。これは、全体としては一般の美術館の収集品の規模から言えば未だにささやかではありますが、すでに充分個性的であり、将来きわめてユニークな存在となるであろう、当館のコレクションの全体像の出発点であると同時に、その最初の根幹を成しています。
今回、皆様がご覧になる作品はそうしたほぼ250点余りの当館所蔵の作品の中からえり抜かれたおよそ180点に及ぶ作品で、それに加えてアルビからお借りした、当館のコレクションには欠けている油彩画7点を含む21点の作品、そして砂子の里資料館からお借りした貴重な歌麿の続きものの浮世絵版画が展示されています。
日本人に深く愛されているロートレックの展覧会は、我が国でもこれまでも何度か大規模なものが開かれてきました。しかし、今回の展覧会のように、版画・ポスターなどのデザイン性の高いグラフィック作品、そして署名や献辞の付いたメニューや招待状などの私的性格の濃い作品にはっきりと焦点をあて、他方で、常にパリのモンマルトルと結び付けて語られるこの画家の画業に故郷アルビと南西フランスという新たな視点を導入する展覧会は、本展が初めてではないでしょうか。こうした性格付けはひとえに、このコレクションが画家と親友ジョワイヤンというきわめて親しい関係の中で生み出されたということから成立したものなのです。ご来場の皆様には、このユニークな展覧会を是非ご覧いただき、喧騒の世紀末の中を36歳で駆け抜けたこの天才画家の作品を、常に友人を大切にしながら、女性たちや社会の弱者たちに極めて優しかった彼の心情に思いを馳せながらご堪能いただきたいと思います。

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