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三菱一号館美術館

館長対談

館長対談 vol.15

ゲスト

浜美枝さん

館長対談 vol.15ゲスト 浜美枝さん

大人が思うよりずっと子どもたちは絵や美術が好き
— 浜美枝

フィリップス・コレクション展は、子どもたちにとって
初めて本物に出会ういい機会になるかもしれない
— 高橋館長

美術館は大好きな場所なんですけれど……。

高橋けれど?

いい機会なので、ちょっとお願いというか、美術館に対するわたしの要望も聞いていただいてもよろしいですか?

高橋もちろんです。

日本の美術館はもう少し、子どもたちに対して扉を開いてほしいと思うんです。わたしは孫が4人いるんですが、小さな子どもたちでも、ほんとうに美しいものはわかります。海外の美術館では、子どもたちが床に座りこんで絵をスケッチしている光景をよく目にします。子どもはみんなお絵描きが好き。それが美というものに触れる原点なんじゃないかと思うんです。でも日本の美術館でお絵描きするのは難しいですよね。

高橋じつはそれは、とても大きく深い問題です。わたしたち美術館で働く人間も深刻にとらえています。現状、展覧会に来ていただいているお客様の多くは、比較的年齢が上の方が多い。でも、いわゆるスマホ世代の若い方々が、年齢を重ねたのち、美術館や展覧会に来てくれるかというと、じつのところ僕は疑問視しています。ただ現実的には、混雑する日本の展覧会事情や、学校で子どもたちを外に連れて行く校外学習が難しくなっている現状を踏まえると、なかなか美術館側で考えているだけでは解決の糸口が見つからないんですよ。

月に1回でも2回でもいいから、もちろん親がついてですけれど、子どもたちが本物に触れる機会があるといいと思うんですが。

高橋フランスで暮らしていた11~12歳の僕は、突然日本の世界から切り離され、最初はもちろんフランス語もできなかったわけです。まだ日本人学校もない時代でしたから、結局その1年間は学校にも行かず遊んでいました。そんな僕のいちばんの遊び場が週に1回、無料で開放しているルーヴル美術館だったんです。言葉が話せなくても、目に入るビジュアル的なもの、つまり絵は“観る”ことができた。朝から夕方まで、東洋人の少年がひとりフラフラしているもんだから、看守のおじさんたちとも仲良くなってしまって。今になってみるととてもいい時間が過ごせたと思っています。

わたしが住んでいる箱根は、幸運にも周囲に美術館が多く、いつでも美術に触れられる環境です。孫たちもよく連れて行きますが、意外に静かに見ているんですよ。大人が思うよりずっと子どもたちは絵や美術が好き。子どもたちに本物に触れる場を提供していかないと、20年後、30年後にはどうなってしまうのかしら……と少し不安に思うこともあります。

高橋先ほどは、絵を観るためには知識にこだわる必要はないとお話ししましたが、西洋美術を楽しむためには、どうしても「観る力」の訓練はある程度必要とも思っています。いきなり1枚の絵と運命的な出会いをする幸運もありますけれど、「観る力」を養っておくことに越したことはない。先年、台湾の政府から、美術館を視察してほしいという要望があり、行ってきました。そうしたら、美術館はどこでも若い人でいっぱいなんです。どうも学校のプログラムとかなり密に連携しているようなんですね。つまりは未来のお客様を育てているんです。

今の日本ほど展覧会を絶えずやっている国は、そうそうありませんよね。それは本物に出会うチャンスがあるということ。わたしの育った時代は貧しかったけれど、だからこそ、本物に触れることをもっと大切にしていたように思います。たとえば、野の花を摘んでコップに挿してテーブルで愛でるとか、それも本物に出会っているということ。民芸や古民家再生に通じることでもありますが、プラスティック文化ではなかったから、身の周りにたくさんの本物があふれていたような気がします。もちろん今の工業製品がダメというわけではありませんが、ちょっと残念な気持ちになることもあるんです。

高橋じつは三菱一号館美術館では、通常は休館日である月曜日の一部を開館し、「トークフリーデー」という日を設け始めました。「トークフリーデー」は、展示室でも声の大きさを気にせずにお話しいただける日です。ベビーカーで来館される親子連れのお客様もよく見かけます。少しずつではありますが、美術館としても扉を開いていければと思っています。

それは素敵な試みですね。わたしも孫を連れて、フィリップス展にうかがおうかしら。そして願わくは、こちらで拝見したあとで、ワシントンにも行ってみたい!

高橋今回の展覧会は「全員巨匠!」と銘打っている通り、ビッグネームが揃いますので、子どもたちが本物に初めて出会う機会としてもいいかもしれません。ぜひ、ご家族でいらしてください。

浜美枝
女優・ライフコーディネーター
1967年公開の映画007シリーズ「007は二度死ぬ」で、初の日本人ボンドガール役を熱演し、国際的に脚光を浴びる。その後も女優のみならず、NHK「日曜美術館」の司会をはじめ、ラジオパーソナリティなどで幅広く活躍。約30年前に箱根に移住してからは、再生した古民家で自然とともに生きるライフスタイルを送っている。

館長対談

大人が思うよりずっと子どもたちは絵や美術が好き
浜美枝

フィリップス・コレクション展は、子どもたちにとって初めて本物に出会ういい機会になるかもしれない
高橋館長

美術館は大好きな場所なんですけれど……。

高橋けれど?

いい機会なので、ちょっとお願いというか、美術館に対するわたしの要望も聞いていただいてもよろしいですか?

高橋もちろんです。

日本の美術館はもう少し、子どもたちに対して扉を開いてほしいと思うんです。
わたしは孫が4人いるんですが、小さな子どもたちでも、ほんとうに美しいものはわかります。海外の美術館では、子どもたちが床に座りこんで絵をスケッチしている光景をよく目にします。
子どもはみんなお絵描きが好き。それが美というものに触れる原点なんじゃないかと思うんです。でも日本の美術館でお絵描きするのは難しいですよね。

高橋じつはそれは、とても大きく深い問題です。わたしたち美術館で働く人間も深刻にとらえています。
現状、展覧会に来ていただいているお客様の多くは、比較的年齢が上の方が多い。でも、いわゆるスマホ世代の若い方々が、年齢を重ねたのち、美術館や展覧会に来てくれるかというと、じつのところ僕は疑問視しています。
ただ現実的には、混雑する日本の展覧会事情や、学校で子どもたちを外に連れて行く校外学習が難しくなっている現状を踏まえると、なかなか美術館側で考えているだけでは解決の糸口が見つからないんですよ。

月に1回でも2回でもいいから、もちろん親がついてですけれど、子どもたちが本物に触れる機会があるといいと思うんですが。

高橋フランスで暮らしていた11~12歳の僕は、突然日本の世界から切り離され、最初はもちろんフランス語もできなかったわけです。まだ日本人学校もない時代でしたから、結局その1年間は学校にも行かず遊んでいました。
そんな僕のいちばんの遊び場が週に1回、無料で開放しているルーヴル美術館だったんです。言葉が話せなくても、目に入るビジュアル的なもの、つまり絵は“観る”ことができた。
朝から夕方まで、東洋人の少年がひとりフラフラしているもんだから、看守のおじさんたちとも仲良くなってしまって。
今になってみるととてもいい時間が過ごせたと思っています。

わたしが住んでいる箱根は、幸運にも周囲に美術館が多く、いつでも美術に触れられる環境です。孫たちもよく連れて行きますが、意外に静かに見ているんですよ。
大人が思うよりずっと子どもたちは絵や美術が好き。子どもたちに本物に触れる場を提供していかないと、20年後、30年後にはどうなってしまうのかしら……と少し不安に思うこともあります。

高橋先ほどは、絵を観るためには知識にこだわる必要はないとお話ししましたが、西洋美術を楽しむためには、どうしても「観る力」の訓練はある程度必要とも思っています。いきなり1枚の絵と運命的な出会いをする幸運もありますけれど、「観る力」を養っておくことに越したことはない。
先年、台湾の政府から、美術館を視察してほしいという要望があり、行ってきました。そうしたら、美術館はどこでも若い人でいっぱいなんです。どうも学校のプログラムとかなり密に連携しているようなんですね。つまりは未来のお客様を育てているんです。

今の日本ほど展覧会を絶えずやっている国は、そうそうありませんよね。それは本物に出会うチャンスがあるということ。わたしの育った時代は貧しかったけれど、だからこそ、本物に触れることをもっと大切にしていたように思います。
たとえば、野の花を摘んでコップに挿してテーブルで愛でるとか、それも本物に出会っているということ。
民芸や古民家再生に通じることでもありますが、プラスティック文化ではなかったから、身の周りにたくさんの本物があふれていたような気がします。
もちろん今の工業製品がダメというわけではありませんが、ちょっと残念な気持ちになることもあるんです。

高橋じつは三菱一号館美術館では、通常は休館日である月曜日の一部を開館し、「トークフリーデー」という日を設け始めました。「トークフリーデー」は、展示室でも声の大きさを気にせずにお話しいただける日です。ベビーカーで来館される親子連れのお客様もよく見かけます。
少しずつではありますが、美術館としても扉を開いていければと思っています。

それは素敵な試みですね。わたしも孫を連れて、フィリップス展にうかがおうかしら。そして願わくは、こちらで拝見したあとで、ワシントンにも行ってみたい!

高橋今回の展覧会は「全員巨匠!」と銘打っている通り、ビッグネームが揃いますので、子どもたちが本物に初めて出会う機会としてもいいかもしれません。ぜひ、ご家族でいらしてください。

プロフィール

浜美枝
女優・ライフコーディネーター
1967年公開の映画007シリーズ「007は二度死ぬ」で、初の日本人ボンドガール役を熱演し、国際的に脚光を浴びる。その後も女優のみならず、NHK「日曜美術館」の司会をはじめ、ラジオパーソナリティなどで幅広く活躍。約30年前に箱根に移住してからは、再生した古民家で自然とともに生きるライフスタイルを送っている。