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三菱一号館美術館

館長対談

館長対談 vol.13

ゲスト

大宮エリーさん

館長対談 vol.13ゲスト 大宮エリーさん

ルドンも大宮さんも、目に見えないものを描きたい人なんだ
— 高橋館長

わたしは、エネルギーというものを
絵という手段で転写しているだけなのかもしれない
— 大宮エリー

高橋ところで、大宮さんが絵を描くようになったきっかけは、なんだったの?

大宮2012年にパルコミュージアムで、インスタレーションの展覧会をやったんです。結構ご好評をいただいて、1万5000人くらいの方が来てくださいました。そのインスタレーションを、いまお世話になっている小山登美夫さんから貸してほしいとお申し出があったんです。そのとき小山さんは、ベネッセの福武会長がモンブラン国際賞を受賞されたオープニング・パーティのキュレーションを担当されていて、そのパーティに出したいと。とても光栄に思って、「どうぞ、どうぞ」って言ったんですけれど……。

高橋ですけれど……?

大宮打ち合わせにうかがったら、モンブランの方から、「ライブペインティング的なものをする人がいないんで、大宮さん、できませんか?」と。

高橋おぉ! 無茶ぶりだ(笑)。

大宮もちろん最初は「できません」と言ったんです。それでも、困っていらっしゃる様子で、隣の小山さんをチラっと見たら、目をそらすし(笑)。それで、お受けしちゃいました。人前で絵を描いたことなんて、まったくなかったのに。

高橋すごい度胸だなぁ。

大宮打ち合わせの帰りに慌てて、東急ハンズに画材を買いに行ったくらいです。

高橋当日はどうだったんですか?

大宮テーマ音楽がモーツァルトで、あんなに優雅な音楽なのに、わたしなんかで大丈夫なの!?と、もうドキドキバクバク。しかも会場には、安藤忠雄さんや杉本博司さんといったすごい人たちがずらりといらっしゃるんです。もう、赤ワインを一気飲みして、酔いに任せて描きました。

高橋それで、それで!?

大宮横幅2m50㎝を超える大きな布に夢中で描きました。出来上がったら、会場から拍手をいただいてホッとしましたね。そうしたら、福武会長が近づいていらして「この絵、どうするの?」と。最近、ピンとくる絵がなかったんだけれど、君のこの絵は、ほしいなとおっしゃるんです。そこで、会場から再び大喝采。そのときに描いた《お祝いの調べ“直島”》は、今もベネッセ本社の受付に飾っていただいています。

「お祝いの調べ”直島” 」2012
acrylic, crayon, felt on canvas

高橋それが人前で描いた初めての絵とはすごいなぁ。大宮さんはきっと憑依体質なんだろうね。ディオニュソスみたいな。

大宮ディオニュソス?

高橋うん。ディオニュソスはギリシャ神話に出てくる豊穣の神なんだけれど、哲学者のニーチェは、陶酔的・創造的衝動を「ディオニュソス的」と言っています。ディオニュソスは、ローマ神話ではバッカスと呼ばれていて、お酒の神様でもあるしね(笑)。

大宮絵を人前で描くようになった最初のころは、お酒を飲まないとできなかったんです(笑)。

高橋どうしてお酒を?

大宮ひとりで描くときは飲まなくても大丈夫なんですが、ライブペインティングのときは、当然のことながら、みんなが見ているじゃないですか。“ひとり”になれない。でもお酒の力を借りると、手っ取り早く“開く”から、描けるような気がして。最後は担がれて退場したこともありました(笑)。でもこれじゃ、体がもたないなと思って、最近は、描く前にお祈りをするようにしてます。変な宗教とかじゃ全然ないんですけれど、そうするようになってから、お酒を飲まなくてもいけるようになってきました。

高橋あぁ、交信しているんだ。ルドンもそんな感じがする。ルドンも大宮さんも、目に見えないものを描きたい人なんだね。

大宮そうなんです!わたし『見えないものが教えてくれたこと』という写真とことばの本も出しているくらいですから。これは日本に初めて神様が降り立ったといわれている沖縄の久高島に行ったことがきっかけで生まれた本なんです。

高橋久高島か。僕も行ったことがあるよ。

大宮えっ、館長も?あそこは神様から呼ばれないと行けない場所なんですよ!久高島では、まさに“呼ばれた”って感じの貴重な体験をたくさんしているんですけれど、あるとき島の人に言われたんです。「神様がこの体験や景色をあんただけに見せてくれていると思ったら、罰があたるよ。あんたは、みんなに届けるお役目なんだよ。そうしないと、結婚できないよ」って。それは困る!と思って、この本を出しました。

「青とさんごの海」
2013 acrylic on canvas

高橋大宮さんは「描かされている」んだね。絵には、見えないものをビジュアル化して人々に見せてくれる力がある。だから僕はたぶん、そんなエネルギーが込められた原初的な絵が好きなんだろうなぁ。まるでシャーマンみたいだね。

大宮わたしは、エネルギーというものを絵という手段で転写しているだけなのかもしれない。自分の意志とは関係なく勝手に話が進んで、絵を描く羽目になってしまった最初のきっかけからして、そんな感じがします。絵を描くことは、わたしにとって、ちょっと神事的な感じなんです。だから、いまはもっともっと、制作したいなと思っています。

高橋今回の「ルドン―秘密の花園」展は、《グラン・ブーケ》と一緒にドムシー城にあった装飾画が15点、一堂に会します。ルドンが描こうとした「目に見えないもの」も、必ず感じてもらえると思いますよ。

大宮すごく楽しみです。あっ、それに館長!例の虹の絵も、いつまでもお買い上げ、お待ちしていますからね(笑)。

高橋あっ、う、うん(笑)。

大宮エリー
作家、脚本家、映画監督、演出家、CMディレクター、CMプランナー、画家。
1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て2006年、独立。映画「海でのはなし。」で映画監督としてデビューし、以降、多岐にわたる分野で活躍している。近著に『なんてこうなるのッ?!』。近年では画家としての活躍も目ざましく、愛媛県の芸術祭「道後オンセナート2018」(2017年9月2日~2019年2月28日)にも参加中。

館長対談

ルドンも大宮さんも、目に見えないものを描きたい人なんだ
高橋館長

わたしは、エネルギーというものを絵という手段で転写しているだけなのかもしれない
大宮エリー

高橋ところで、大宮さんが絵を描くようになったきっかけは、なんだったの?

大宮2012年にパルコミュージアムで、インスタレーションの展覧会をやったんです。結構ご好評をいただいて、1万5000人くらいの方が来てくださいました。そのインスタレーションを、いまお世話になっている小山登美夫さんから貸してほしいとお申し出があったんです。そのとき小山さんは、ベネッセの福武会長がモンブラン国際賞を受賞されたオープニング・パーティのキュレーションを担当されていて、そのパーティに出したいと。とても光栄に思って、「どうぞ、どうぞ」って言ったんですけれど……。

高橋ですけれど……?

大宮打ち合わせにうかがったら、モンブランの方から、「ライブペインティング的なものをする人がいないんで、大宮さん、できませんか?」と。

高橋おぉ! 無茶ぶりだ(笑)。

大宮もちろん最初は「できません」と言ったんです。それでも、困っていらっしゃる様子で、隣の小山さんをチラっと見たら、目をそらすし(笑)。それで、お受けしちゃいました。人前で絵を描いたことなんて、まったくなかったのに。

高橋すごい度胸だなぁ。

大宮打ち合わせの帰りに慌てて、東急ハンズに画材を買いに行ったくらいです。

高橋当日はどうだったんですか?

大宮テーマ音楽がモーツァルトで、あんなに優雅な音楽なのに、わたしなんかで大丈夫なの!?と、もうドキドキバクバク。しかも会場には、安藤忠雄さんや杉本博司さんといったすごい人たちがずらりといらっしゃるんです。もう、赤ワインを一気飲みして、酔いに任せて描きました。

高橋それで、それで!?

大宮横幅2m50㎝を超える大きな布に夢中で描きました。出来上がったら、会場から拍手をいただいてホッとしましたね。そうしたら、福武会長が近づいていらして「この絵、どうするの?」と。最近、ピンとくる絵がなかったんだけれど、君のこの絵は、ほしいなとおっしゃるんです。そこで、会場から再び大喝采。そのときに描いた《お祝いの調べ“直島”》は、今もベネッセ本社の受付に飾っていただいています。

「お祝いの調べ”直島” 」2012
acrylic, crayon, felt on canvas

高橋それが人前で描いた初めての絵とはすごいなぁ。大宮さんはきっと憑依体質なんだろうね。ディオニュソスみたいな。

大宮ディオニュソス?

高橋うん。ディオニュソスはギリシャ神話に出てくる豊穣の神なんだけれど、哲学者のニーチェは、陶酔的・創造的衝動を「ディオニュソス的」と言っています。ディオニュソスは、ローマ神話ではバッカスと呼ばれていて、お酒の神様でもあるしね(笑)。

大宮 絵を人前で描くようになった最初のころは、お酒を飲まないとできなかったんです(笑)。

高橋どうしてお酒を?

大宮ひとりで描くときは飲まなくても大丈夫なんですが、ライブペインティングのときは、当然のことながら、みんなが見ているじゃないですか。“ひとり”になれない。でもお酒の力を借りると、手っ取り早く“開く”から、描けるような気がして。最後は担がれて退場したこともありました(笑)。でもこれじゃ、体がもたないなと思って、最近は、描く前にお祈りをするようにしてます。変な宗教とかじゃ全然ないんですけれど、そうするようになってから、お酒を飲まなくてもいけるようになってきました。

高橋あぁ、交信しているんだ。ルドンもそんな感じがする。ルドンも大宮さんも、目に見えないものを描きたい人なんだね。

大宮そうなんです!わたし『見えないものが教えてくれたこと』という写真とことばの本も出しているくらいですから。これは日本に初めて神様が降り立ったといわれている沖縄の久高島に行ったことがきっかけで生まれた本なんです。

高橋久高島か。僕も行ったことがあるよ。

大宮えっ、館長も?あそこは神様から呼ばれないと行けない場所なんですよ!久高島では、まさに“呼ばれた”って感じの貴重な体験をたくさんしているんですけれど、あるとき島の人に言われたんです。「神様がこの体験や景色をあんただけに見せてくれていると思ったら、罰があたるよ。あんたは、みんなに届けるお役目なんだよ。そうしないと、結婚できないよ」って。それは困る!と思って、この本を出しました。

「青とさんごの海」
2013 acrylic on canvas

高橋大宮さんは「描かされている」んだね。絵には、見えないものをビジュアル化して人々に見せてくれる力がある。だから僕はたぶん、そんなエネルギーが込められた原初的な絵が好きなんだろうなぁ。まるでシャーマンみたいだね。

大宮わたしは、エネルギーというものを絵という手段で転写しているだけなのかもしれない。自分の意志とは関係なく勝手に話が進んで、絵を描く羽目になってしまった最初のきっかけからして、そんな感じがします。絵を描くことは、わたしにとって、ちょっと神事的な感じなんです。だから、いまはもっともっと、制作したいなと思っています。

高橋今回の「ルドン―秘密の花園」展は、《グラン・ブーケ》と一緒にドムシー城にあった装飾画が15点、一堂に会します。ルドンが描こうとした「目に見えないもの」も、必ず感じてもらえると思いますよ。

大宮すごく楽しみです。あっ、それに館長!例の虹の絵も、いつまでもお買い上げ、お待ちしていますからね(笑)。

高橋あっ、う、うん(笑)。

プロフィール

大宮エリー
作家、脚本家、映画監督、演出家、CMディレクター、CMプランナー、画家。
1975年大阪生まれ。広告代理店勤務を経て2006年、独立。映画「海でのはなし。」で映画監督としてデビューし、以降、多岐にわたる分野で活躍している。近著に『なんてこうなるのッ?!』。近年では画家としての活躍も目ざましく、愛媛県の芸術祭「道後オンセナート2018」(2017年9月2日~2019年2月28日)にも参加中。