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三菱一号館美術館

館長対談

館長対談 vol.20

ゲスト

平野信行さん

館長対談 vol.20ゲスト 平野信行さん

静嘉堂や東洋文庫の質の高いコレクションには、三菱の高い社会貢献の意識がみてとれます
— 高橋館長

なんらかの形で自分たちが築いたものを社会に還元したいという気持ちが芽生えてきたのでしょう
— 平野信行

高橋三菱一号館美術館の10年の歩みを振り返ってきましたが、ここからは当館の未来について目を向けてみたいと思います。7月8日から三菱創業150年を記念した「三菱の至宝展」(〜9月22日)が始まります。※三菱一号館を構想した岩崎彌之助が創設し、嗣子である小彌太が拡充した静嘉堂、そして、岩崎久彌によるアジア最大の東洋学研究図書館・東洋文庫という、三菱の歴史を刻んだ両館の名品が集結する展覧会です。

平野三菱を創業した岩崎家初代・彌太郎、二代・彌之助、三代・久彌、四代・小彌太は、海運をはじめとした日本の近代化を担った実業家です。創業者である彌太郎は、事業を成功させて三菱の基盤を築きました。残念なことに彌太郎は、50歳という若さで早世しますが、その跡を継いだ弟の彌之助は海外への留学経験もあり、実業だけでなく、社会貢献という意識も身につけていったのでしょう。明治の西洋文化偏重のなかで軽視されがちだった東洋固有の文化財の収集活動を本格的に始め、明治25年、静嘉堂文庫を創設して、息子の四代・小彌太がコレクションを拡充していきます。一方の東洋文庫は、彌太郎の息子で、三代の久彌が設立しました。※「三菱の至宝展」は会期変更により、2021年6月30日~9月12日まで開催。

高橋そうした質の高いコレクションには、三菱の高い社会貢献の意識がみてとれます。

平野事業が成功し、彼ら自身が社会人、実業家として成熟していくなかで、なんらかの形で自分たちが築いたものを社会に還元したいという気持ちが芽生えてきたのでしょう。その思いが刻まれているのが、三菱創業から約60年を経てできた三菱の「三綱領」です。

高橋平野さんから「三綱領」を簡単にご説明いただけますか?

平野四代・小彌太によって、1930年代に記されたものです。ひとつ目は「初期奉公」=期するところは社会への貢献。ふたつ目が「処事光明」=フェアープレイに徹する。そして三つ目が「立業貿易」=グローバルな視野で。わずか12文字に、現在の我々もまだ到達できないプリンシプルズ(原理・原則・信条)が込められています。

高橋非常に先進的な視点ですね。

平野「初期奉公」は、いわば会社の目的です。最近、アメリカでパーパス論というのが流行っているんですよ。お金儲けをすることが目的ではなく、社会的な課題をいかに解決するかとか、イノベーションを起こして世の中を変えていくというような、起業目的論が重要視されています。こうした風潮の背景には、イノベーションを起こし、新たなビジネスモデルをつくって再びアメリカが世界の産業をリードするという企業の動きの一方で、社会が分断され、不平等・不公平が進んでいるという事情があります。残念なことに、世の中全体が豊かになっているとは決して言えない状況ですからね。こうした課題を解決するために、パーパス論が注目されているわけです。それを、すでに80年以上も前に小彌太は言い当てているのです。期するところはパブリック、つまり「お上(かみ)」ではなく、「公」であると。

高橋明治の時代には、倉敷の大原美術館を創設した大原孫三郎や、国立西洋美術館のコレクションの礎を築いた松方幸次郎など、美術を通じて社会貢献に尽力した実業家が多くいたように思います。でも、現代はあまりそうした人物が出てきていない気がするのですが……。

平野アートの世界というのは、あるひとりの人物がその人の感性や趣向、思想、哲学といったものを中核にして築き上げるものだと思うのです。個人ないしは、ファミリーの名において事業が営まれている間は、コレクターにもなれるし、キュレイターの助けを借りるなどして大きなコレクションのスポンサーにもなれる。岩崎家のように。ただ、会社組織化されると個の世界ではなくなる。したがって個性をもったアートの集合体をつくり上げるというのは難しくなるんじゃないでしょうか。

高橋なるほど。当館で開催した展覧会の「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」(2013年2月9日〜5月26日)ではクラーク夫妻の、「フィリップス・コレクション展」(2018年10月17日〜2019年2月11日)ではダンカン・フィリップスなど、個性的なコレクターの審美眼が際立ちました。

平野そういう意味での実業家は、日本では生まれにくくなっているのかもしれません。ただ、我々のような現代の「企業人」にも、できることはまだたくさんあると思っています。たとえば、静嘉堂や東洋文庫のように、ファウンダーファミリーが残したものを守り、発展させていくこと。そして、いま重要なのは「教育」だと思っています。つまり、新しい人材を育てるためのファンディング(財政的支援)です。

高橋教育といえば、平野さんは「三菱みらい育成財団」の理事長も務められていますね。そこでも、アートへの取り組みはされていく予定なのでしょうか?

平野はい、もちろんです。三菱みらい育成財団の目的はふたつあります。ひとつは、未来を担う子ども・若者の育成を目指す教育機関などを助成し、その成果を広く社会に波及するための事業を行うこと。そしてもうひとつは、未来に向かう子どもや若者を応援するとともに、それを通じて社会の未来を育むことへの寄与です。自分の頭で考え、自分で行動できる人を育てること――これを、「心のエンジンを駆動する」プログラムと呼んでいるのですが、知識を詰め込むような受験教育ではなく、もっと自由な発想で、それぞれの子どもの個性を伸ばしていけるような取り組みができればと考えています。

高橋アートの力の見せどころかもしれません!

平野ええ。最近、アーツ イン エデュケーション(AIE)という、アートを教育に実践的に取り入れることで感性を磨き、心を豊かにするという教育方法も注目されていますよね。教育という大項目があり、その重要な後押しとしてアートがあるというわけです。三菱創業150周年の記念事業として始まった三菱みらい教育財団でも、そうした取り組みを積極的に進めていきたいと思っています。

高橋どうしても美術には、教養臭がまとわりついているせいか、日本のビジネスパーソンは同僚やビジネスパートナーとの会話で美術の話題を出すのを嫌う風潮も感じています。ちょっと残念だなと思うシーンが多いんです。ですから、こうした平野さん流の教育へのアプローチによって、ぜひ美術に対する誤った教養主義や偏見を払拭していただきたいです。

平野海外のビジネスパーソンとアートの話をしていると、尊敬されることはあっても、敬遠されることはないですよね。たとえば、三菱のパートナー企業である、米国の投資銀行モルガン・スタンレーは、イギリスの美術館、テート・モダンで取締役会のディナーを開くこともあります。日本のビジネスパーソンは、戦後の高度成長期、ビジネスに100パーセント集中しなくてはならない状況に身を置くことで、反省を込めて言えば、視野が狭くなってしまったのかもしれない。趣味の世界に没頭することが本業不熱心という低評価につながってしまうような。

高橋有用性がもっとも優先されたわけですね。でも、アートには即効的な有用性などない。最近、よくほうぼうで言っているのですが、アートは極論すれば役に立たないものなんですよね。少なくとも「すぐに」は。アートの効用なんて、50年、100年の単位でじわじわ出てくるものなのです。だからこそ、平野さんのような、アートのほんとうの価値を理解されている方には、どんどん新しい人材を育てる取り組みを進めていっていただきたいと思います。

平野はい、できることはたくさんあると思います。たとえば、21世紀型の新しい教育として、世界各国で「STEM教育」が導入され始めています。Science(教育)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの頭文字をとったもので、これら4つの分野に注力することで、新しい人材を育てようという教育です。けれども、さらに一歩進んで、ここに「A」、つまりArt(芸術)を加えた「STEAM教育」という考え方も登場しています。つまり、アートによって触発される自由な発想や想像力が、ビジネスの世界でも、テクノロジーの世界でも必要とされているのです。アートが「価値」を生む原動力として、改めて認められ始めているという証だと思います。だから私は、アートの未来にまったく絶望はしていませんよ(笑)。

高橋まさに、ギリシャ・ローマ時代からルネサンス期にかけて、一般教養の基盤となってきた「リベラル・アーツ(文法・修辞・弁証法・算術・幾何・天文学・音楽の自由七科)」と同様の考え方ですね。そうした教育プログラムが浸透していくことで、ビジネスパーソンを含めた多くの人々が、もっと自由に、そして広く、アートを楽しむ時代がくることを願っています。では最後に、「三菱の至宝展」で、平野さんが楽しみにされている出品作をうかがえればと思います。

平野国宝の《曜変天目》(静嘉堂蔵)は、もちろん楽しみなのですが、彌之助が京都・醍醐寺を支援した返礼の品といわれる《源氏物語関屋澪標図屏風》(静嘉堂蔵)は見たことがないので、ぜひ拝見してみたいですね。それに、書跡の《和漢朗詠抄》も。書についてはまったくの初心者ですが、日本ならではアートともいえる美しい料紙をぜひこの目で鑑賞したいと思っています。先ほどもお話ししたように、静嘉堂や東洋文庫の所蔵品がここ一号館美術館という場で、いつもとは異なるコンテクストで展覧されることに、期待がふくらんでいます。

高橋英国風の建物である当館に国宝作品がずらりと並ぶというのも、新鮮な発見につながると思います。ぜひ、新たな三菱一号館美術館の歴史のスタートとして、多くの方々に楽しんでいただきたいです。

※この対談は、2020年7月8日に開幕を予定していた「三菱の至宝展」に合わせて、2020年3月に行われたものです。「三菱の至宝展」開催は、2021年6月30日~9月12日に延期となりました。

平野信行(ひらの・のぶゆき)
株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ取締役 執行役会長
1951年、岐阜県各務原市生まれ。京都大学法学部卒。74年、三菱銀行入行。海外赴任などを経て、2012年、三菱東京UFJ銀行頭取、13年、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長に就任。19年から現職。三菱みらい育成財団理事長、モルガン・スタンレー取締役などを兼務。

館長対談

静嘉堂や東洋文庫の質の高いコレクションには、三菱の高い社会貢献の意識がみてとれます
高橋館長

なんらかの形で自分たちが築いたものを社会に還元したいという気持ちが芽生えてきたのでしょう
平野信行

高橋三菱一号館美術館の10年の歩みを振り返ってきましたが、ここからは当館の未来について目を向けてみたいと思います。7月8日から三菱創業150年を記念した「三菱の至宝展」(〜9月22日)が始まります。※三菱一号館を構想した岩崎彌之助が創設し、嗣子である小彌太が拡充した静嘉堂、そして、岩崎久彌によるアジア最大の東洋学研究図書館・東洋文庫という、三菱の歴史を刻んだ両館の名品が集結する展覧会です。

平野三菱を創業した岩崎家初代・彌太郎、二代・彌之助、三代・久彌、四代・小彌太は、海運をはじめとした日本の近代化を担った実業家です。創業者である彌太郎は、事業を成功させて三菱の基盤を築きました。残念なことに彌太郎は、50歳という若さで早世しますが、その跡を継いだ弟の彌之助は海外への留学経験もあり、実業だけでなく、社会貢献という意識も身につけていったのでしょう。明治の西洋文化偏重のなかで軽視されがちだった東洋固有の文化財の収集活動を本格的に始め、明治25年、静嘉堂文庫を創設して、息子の四代・小彌太がコレクションを拡充していきます。一方の東洋文庫は、彌太郎の息子で、三代の久彌が設立しました。※「三菱の至宝展」は会期変更により、2021年6月30日~9月12日まで開催。

高橋そうした質の高いコレクションには、三菱の高い社会貢献の意識がみてとれます。

平野事業が成功し、彼ら自身が社会人、実業家として成熟していくなかで、なんらかの形で自分たちが築いたものを社会に還元したいという気持ちが芽生えてきたのでしょう。その思いが刻まれているのが、三菱創業から約60年を経てできた三菱の「三綱領」です。

高橋平野さんから「三綱領」を簡単にご説明いただけますか?

平野四代・小彌太によって、1930年代に記されたものです。ひとつ目は「初期奉公」=期するところは社会への貢献。ふたつ目が「処事光明」=フェアープレイに徹する。そして三つ目が「立業貿易」=グローバルな視野で。わずか12文字に、現在の我々もまだ到達できないプリンシプルズ(原理・原則・信条)が込められています。

高橋非常に先進的な視点ですね。

平野「初期奉公」は、いわば会社の目的です。最近、アメリカでパーパス論というのが流行っているんですよ。お金儲けをすることが目的ではなく、社会的な課題をいかに解決するかとか、イノベーションを起こして世の中を変えていくというような、起業目的論が重要視されています。こうした風潮の背景には、イノベーションを起こし、新たなビジネスモデルをつくって再びアメリカが世界の産業をリードするという企業の動きの一方で、社会が分断され、不平等・不公平が進んでいるという事情があります。残念なことに、世の中全体が豊かになっているとは決して言えない状況ですからね。こうした課題を解決するために、パーパス論が注目されているわけです。それを、すでに80年以上も前に小彌太は言い当てているのです。期するところはパブリック、つまり「お上(かみ)」ではなく、「公」であると。

高橋明治の時代には、倉敷の大原美術館を創設した大原孫三郎や、国立西洋美術館のコレクションの礎を築いた松方幸次郎など、美術を通じて社会貢献に尽力した実業家が多くいたように思います。でも、現代はあまりそうした人物が出てきていない気がするのですが……。

平野アートの世界というのは、あるひとりの人物がその人の感性や趣向、思想、哲学といったものを中核にして築き上げるものだと思うのです。個人ないしは、ファミリーの名において事業が営まれている間は、コレクターにもなれるし、キュレイターの助けを借りるなどして大きなコレクションのスポンサーにもなれる。岩崎家のように。ただ、会社組織化されると個の世界ではなくなる。したがって個性をもったアートの集合体をつくり上げるというのは難しくなるんじゃないでしょうか。

高橋なるほど。当館で開催した展覧会の「奇跡のクラーク・コレクション―ルノワールとフランス絵画の傑作」(2013年2月9日〜5月26日)ではクラーク夫妻の、「フィリップス・コレクション展」(2018年10月17日〜2019年2月11日)ではダンカン・フィリップスなど、個性的なコレクターの審美眼が際立ちました。

平野そういう意味での実業家は、日本では生まれにくくなっているのかもしれません。ただ、我々のような現代の「企業人」にも、できることはまだたくさんあると思っています。たとえば、静嘉堂や東洋文庫のように、ファウンダーファミリーが残したものを守り、発展させていくこと。そして、いま重要なのは「教育」だと思っています。つまり、新しい人材を育てるためのファンディング(財政的支援)です。

高橋教育といえば、平野さんは「三菱みらい育成財団」の理事長も務められていますね。そこでも、アートへの取り組みはされていく予定なのでしょうか?

平野はい、もちろんです。三菱みらい育成財団の目的はふたつあります。ひとつは、未来を担う子ども・若者の育成を目指す教育機関などを助成し、その成果を広く社会に波及するための事業を行うこと。そしてもうひとつは、未来に向かう子どもや若者を応援するとともに、それを通じて社会の未来を育むことへの寄与です。自分の頭で考え、自分で行動できる人を育てること――これを、「心のエンジンを駆動する」プログラムと呼んでいるのですが、知識を詰め込むような受験教育ではなく、もっと自由な発想で、それぞれの子どもの個性を伸ばしていけるような取り組みができればと考えています。

高橋アートの力の見せどころかもしれません!

平野ええ。最近、アーツ イン エデュケーション(AIE)という、アートを教育に実践的に取り入れることで感性を磨き、心を豊かにするという教育方法も注目されていますよね。教育という大項目があり、その重要な後押しとしてアートがあるというわけです。三菱創業150周年の記念事業として始まった三菱みらい教育財団でも、そうした取り組みを積極的に進めていきたいと思っています。

高橋どうしても美術には、教養臭がまとわりついているせいか、日本のビジネスパーソンは同僚やビジネスパートナーとの会話で美術の話題を出すのを嫌う風潮も感じています。ちょっと残念だなと思うシーンが多いんです。ですから、こうした平野さん流の教育へのアプローチによって、ぜひ美術に対する誤った教養主義や偏見を払拭していただきたいです。

平野海外のビジネスパーソンとアートの話をしていると、尊敬されることはあっても、敬遠されることはないですよね。たとえば、三菱のパートナー企業である、米国の投資銀行モルガン・スタンレーは、イギリスの美術館、テート・モダンで取締役会のディナーを開くこともあります。日本のビジネスパーソンは、戦後の高度成長期、ビジネスに100パーセント集中しなくてはならない状況に身を置くことで、反省を込めて言えば、視野が狭くなってしまったのかもしれない。趣味の世界に没頭することが本業不熱心という低評価につながってしまうような。

高橋有用性がもっとも優先されたわけですね。でも、アートには即効的な有用性などない。最近、よくほうぼうで言っているのですが、アートは極論すれば役に立たないものなんですよね。少なくとも「すぐに」は。アートの効用なんて、50年、100年の単位でじわじわ出てくるものなのです。だからこそ、平野さんのような、アートのほんとうの価値を理解されている方には、どんどん新しい人材を育てる取り組みを進めていっていただきたいと思います。

平野はい、できることはたくさんあると思います。たとえば、21世紀型の新しい教育として、世界各国で「STEM教育」が導入され始めています。Science(教育)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)のそれぞれの頭文字をとったもので、これら4つの分野に注力することで、新しい人材を育てようという教育です。けれども、さらに一歩進んで、ここに「A」、つまりArt(芸術)を加えた「STEAM教育」という考え方も登場しています。つまり、アートによって触発される自由な発想や想像力が、ビジネスの世界でも、テクノロジーの世界でも必要とされているのです。アートが「価値」を生む原動力として、改めて認められ始めているという証だと思います。だから私は、アートの未来にまったく絶望はしていませんよ(笑)。

高橋まさに、ギリシャ・ローマ時代からルネサンス期にかけて、一般教養の基盤となってきた「リベラル・アーツ(文法・修辞・弁証法・算術・幾何・天文学・音楽の自由七科)」と同様の考え方ですね。そうした教育プログラムが浸透していくことで、ビジネスパーソンを含めた多くの人々が、もっと自由に、そして広く、アートを楽しむ時代がくることを願っています。では最後に、「三菱の至宝展」で、平野さんが楽しみにされている出品作をうかがえればと思います。

平野国宝の《曜変天目》(静嘉堂蔵)は、もちろん楽しみなのですが、彌之助が京都・醍醐寺を支援した返礼の品といわれる《源氏物語関屋澪標図屏風》(静嘉堂蔵)は見たことがないので、ぜひ拝見してみたいですね。それに、書跡の《和漢朗詠抄》も。書についてはまったくの初心者ですが、日本ならではアートともいえる美しい料紙をぜひこの目で鑑賞したいと思っています。先ほどもお話ししたように、静嘉堂や東洋文庫の所蔵品がここ一号館美術館という場で、いつもとは異なるコンテクストで展覧されることに、期待がふくらんでいます。

高橋英国風の建物である当館に国宝作品がずらりと並ぶというのも、新鮮な発見につながると思います。ぜひ、新たな三菱一号館美術館の歴史のスタートとして、多くの方々に楽しんでいただきたいです。

※この対談は、2020年7月8日に開幕を予定していた「三菱の至宝展」に合わせて、2020年3月に行われたものです。「三菱の至宝展」開催は、2021年6月30日~9月12日に延期となりました。

プロフィール

平野信行(ひらの・のぶゆき)
株式会社三菱 UFJ フィナンシャル・グループ取締役 執行役会長
1951年、岐阜県各務原市生まれ。京都大学法学部卒。74年、三菱銀行入行。海外赴任などを経て、2012年、三菱東京UFJ銀行頭取、13年、三菱UFJフィナンシャル・グループ社長に就任。19年から現職。三菱みらい育成財団理事長、モルガン・スタンレー取締役などを兼務