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三菱一号館美術館

館長対談

館長対談 vol.12

ゲスト

片山右京さん

館長対談 vol.12ゲスト 片山右京さん

“若いときは衝動とか情熱が行動の動機になります。
ロートレックのモチベーションはなんだったんだろう?”
― 片山さん
“ロートレックの線描には、人に何かを伝えてくれる強い力があります。
そして何よりも色気がある”
— 高橋館長

片山僕が自転車を始めた理由は、登山のためのトレーニングでもあったんですが、自転車の選手に出会って、これまで応援してもらう側だったから、これからは応援する側に回りたいという思いからでした。でももっと突き詰めると、自転車にはモビリティーという役割以上に、教育という可能性を強く感じていたからなんです。

高橋美術館の大きな存在意義のひとつにも、人々の美的感受性に対する教育があります。片山さんが考える自転車における教育とは、どんなものなんですか?すごく興味があります。

片山たとえばツール・ド・フランスは、フランスが誇る文化でありスポーツです。でもその根底には、ヨーロッパの騎士道精神が流れています。エースを勝たせるためにアシストがいて、彼らは食べ物や飲み物をエースに届けたり、ときには風よけになったり、パンクしたら自分のタイヤを差しだしたりもするんです。そして、自分の力を使い果たしたら、さっきまで戦っていたライバルと力を合わせてゴールを目指す。どうしてかというと、ゴールに到着しないと翌日にスタートする権利を与えられないから。アインシュタインさんの最後の言葉に「人生は自転車のように、こぎ続けないと倒れるんだよ」とあるけれど、まさに自転車って、人生の縮図のように僕は感じるんですよ。だから競い合うレースではあるけれど、そこには教育的な要素や伝えられるものがたくさんあるんだなと感じています。

高橋なるほど。素晴らしいですね。三菱一号館美術館は、三菱地所という企業が運営する美術館なので、もちろん収支のことも考えなければいけないのだけれど、でもやっぱり芸術は損得勘定ではない。人間の感性への教育の場という大きな責任は、絶対に忘れてはいけない視点だと心しています。そう考えるとアートもスポーツもよく似ていますよね。

片山ええ、前回の「レオナルド×ミケランジェロ展」を拝見して、芸術作品には時代を超越した、大きな真理が秘められていると痛感しました。そこから学ぶものはほんとうに大きいなと。

高橋昔だったら、おじいちゃんやおばあちゃん、近所のおじさんやおばさんをはじめ、たくさんの人がひとつのコミュニティーのなかでさまざまなことを子どもたちに教えてくれた。でも、そうしたコミュニティーがなくなってきている今、学ぶ場や機会は、意識して構築していかないといけないんです。美術館がそうした場であり続けるには、どうしたらいいか、僕は日々、頭を悩ませています。

片山僕は今回、にわか仕込みですけれど、ロートレックのことを調べてみて、その人物像にとても惹かれました。僕が何も考えずにパリに行ったように、若いときは衝動とか情熱が行動の動機になりますよね。ロートレックのモチベーションはなんだったんだろうと考えたとき、それは彼が子どもの頃の骨折によって抱えた身体的なコンプレックスだったんじゃないかなと思ったんです。下世話な話ですが、僕は貧乏だったから、お金持ちになって見返してやりたい!っていう気持ちも大きなモチベーションになっていました。ポジティブなものはもちろん、一見ネガティブなように思えるものも、本人の使いようによっては大きなエネルギーになるんですよね。画家もレーシングドライバーも、同じ人間なんだなと、親しみを覚えました。美術館で芸術作品に向き合うことで、こんなにもいろいろなことが見えてくるんですね。

高橋その人生はもちろん、ロートレックの線描には、人に何かを伝えてくれる強い力があります。そして何よりも色気がある。名門貴族という恵まれた生まれではあったけれど、ロートレックは確実に、何かを引き換えにして、絵にかける情熱を手にしたんだと思います。でもね、確かにロートレックの人生はドラマティックなところがあって、そうした影響は油彩画に色濃く表れています。しかし、商業ポスターはどこまでも明るくて、楽しい。僕はね、そんなロートレックのポスターもまた大好きなんですよ。

片山ええ、素人ながらもすごくよくわかります。色遣いとか構図とかを見ると、この人相当キレてるなと思います(笑)。

高橋そう、キレキレなんですよ、この人は。今回の展覧会も、SNSとかで見ると若い世代の子たちの前評判が非常に高いんです。

片山じつは娘が4歳から油絵をやっていて、武蔵野美術大学を出て、今はグラフィック・デザイナーなんです。

高橋えっ! そうなんですか! それならば展覧会にはぜひお嬢さんと一緒にいらしてください。

片山今回の対談は、芸術家の素顔を知る喜びという新しい発見させていただいた貴重な機会となりました。ありがとうございます。ぜひ娘と一緒にうかがわせていただきます。

高橋僕もまた、昔好きで乗っていた自転車で長距離を走りたくなってきました。そのときには、ぜひよろしくお願いします。

片山右京(かたやま うきょう)
1983年にFJ1600筑波シリーズでレースデビュー。F1に6年間連続参戦し、日本人では最多の95戦に出場。1994年には当時の日本人予選最高位である5位を記録。F1引退後は自転車競技選手として数々の自転車レースに参戦するほか、登山家として世界の名立たる高峰登山への登頂記録を持つ。

館長対談

“若いときは衝動とか情熱が行動の動機になり
ます。ロートレックのモチベーションはなん
だったんだろう?”片山さん

“ロートレックの線描には、人に何かを伝えて
くれる強い力があります。
そして何よりも色気がある”高橋館長

片山僕が自転車を始めた理由は、登山のためのトレーニングでもあったんですが、自転車の選手に出会って、これまで応援してもらう側だったから、これからは応援する側に回りたいという思いからでした。でももっと突き詰めると、自転車にはモビリティーという役割以上に、教育という可能性を強く感じていたからなんです。

高橋美術館の大きな存在意義のひとつにも、人々の美的感受性に対する教育があります。片山さんが考える自転車における教育とは、どんなものなんですか?すごく興味があります。

片山たとえばツール・ド・フランスは、フランスが誇る文化でありスポーツです。でもその根底には、ヨーロッパの騎士道精神が流れています。エースを勝たせるためにアシストがいて、彼らは食べ物や飲み物をエースに届けたり、ときには風よけになったり、パンクしたら自分のタイヤを差しだしたりもするんです。そして、自分の力を使い果たしたら、さっきまで戦っていたライバルと力を合わせてゴールを目指す。どうしてかというと、ゴールに到着しないと翌日にスタートする権利を与えられないから。アインシュタインさんの最後の言葉に「人生は自転車のように、こぎ続けないと倒れるんだよ」とあるけれど、まさに自転車って、人生の縮図のように僕は感じるんですよ。だから競い合うレースではあるけれど、そこには教育的な要素や伝えられるものがたくさんあるんだなと感じています。

高橋なるほど。素晴らしいですね。三菱一号館美術館は、三菱地所という企業が運営する美術館なので、もちろん収支のことも考えなければいけないのだけれど、でもやっぱり芸術は損得勘定ではない。人間の感性への教育の場という大きな責任は、絶対に忘れてはいけない視点だと心しています。そう考えるとアートもスポーツもよく似ていますよね。

片山ええ、前回の「レオナルド×ミケランジェロ展」を拝見して、芸術作品には時代を超越した、大きな真理が秘められていると痛感しました。そこから学ぶものはほんとうに大きいなと。

高橋昔だったら、おじいちゃんやおばあちゃん、近所のおじさんやおばさんをはじめ、たくさんの人がひとつのコミュニティーのなかでさまざまなことを子どもたちに教えてくれた。でも、そうしたコミュニティーがなくなってきている今、学ぶ場や機会は、意識して構築していかないといけないんです。美術館がそうした場であり続けるには、どうしたらいいか、僕は日々、頭を悩ませています。

片山僕は今回、にわか仕込みですけれど、ロートレックのことを調べてみて、その人物像にとても惹かれました。僕が何も考えずにパリに行ったように、若いときは衝動とか情熱が行動の動機になりますよね。ロートレックのモチベーションはなんだったんだろうと考えたとき、それは彼が子どもの頃の骨折によって抱えた身体的なコンプレックスだったんじゃないかなと思ったんです。下世話な話ですが、僕は貧乏だったから、お金持ちになって見返してやりたい!っていう気持ちも大きなモチベーションになっていました。ポジティブなものはもちろん、一見ネガティブなように思えるものも、本人の使いようによっては大きなエネルギーになるんですよね。画家もレーシングドライバーも、同じ人間なんだなと、親しみを覚えました。美術館で芸術作品に向き合うことで、こんなにもいろいろなことが見えてくるんですね。

高橋その人生はもちろん、ロートレックの線描には、人に何かを伝えてくれる強い力があります。そして何よりも色気がある。名門貴族という恵まれた生まれではあったけれど、ロートレックは確実に、何かを引き換えにして、絵にかける情熱を手にしたんだと思います。でもね、確かにロートレックの人生はドラマティックなところがあって、そうした影響は油彩画に色濃く表れています。しかし、商業ポスターはどこまでも明るくて、楽しい。僕はね、そんなロートレックのポスターもまた大好きなんですよ。

片山ええ、素人ながらもすごくよくわかります。色遣いとか構図とかを見ると、この人相当キレてるなと思います(笑)。

高橋そう、キレキレなんですよ、この人は。今回の展覧会も、SNSとかで見ると若い世代の子たちの前評判が非常に高いんです。

片山じつは娘が4歳から油絵をやっていて、武蔵野美術大学を出て、今はグラフィック・デザイナーなんです。

高橋えっ! そうなんですか! それならば展覧会にはぜひお嬢さんと一緒にいらしてください。

片山今回の対談は、芸術家の素顔を知る喜びという新しい発見させていただいた貴重な機会となりました。ありがとうございます。ぜひ娘と一緒にうかがわせていただきます。

高橋僕もまた、昔好きで乗っていた自転車で長距離を走りたくなってきました。そのときには、ぜひよろしくお願いします。

プロフィール

片山右京(かたやま うきょう)
1983年にFJ1600筑波シリーズでレースデビュー。F1に6年間連続参戦し、日本人では最多の95戦に出場。1994年には当時の日本人予選最高位である5位を記録。F1引退後は自転車競技選手として数々の自転車レースに参戦するほか、登山家として世界の名立たる高峰登山への登頂記録を持つ。