成城大学文芸学部・高名康文先生の「フォルチュニ展」講評
成城大学文芸学部教授の高名康文先生が、本展にご来館くださり、facebookに講評掲載してくださいました。当館公式ブログへの記事の転載をご快諾くださいましたので、ご紹介いたします。
三菱一号館美術館のマリアノ・フォルチュニ展に行って来ました。
企画を担当した学芸員が、私と同時期にフランスに留学していた方で、お誘いがあったのです。
担当者じきじきに案内してもらうこともできたのですが、一人でじっくり見てまわりました。
洋服の展示だけであれば、私はさほど関心が持てなかったのかもしれません。しかし、この芸術家の多角的な活動と、同時代と後世の芸術・社会への影響への目配りがよく効いていて、多くの発見がありました。
基盤にある画家としての活動は家系の文化遺産を受け継いでいるのですが、19世紀末から20世紀前半を活動時期とした芸術家が、若い頃にワーグナーに関心をもったことから舞台の総合芸術に活動領域を広げて、衣装のみならず、舞台の設計(照明装置も)も行うようになります。親の代からのギリシアと東洋の文様への関心を服飾のデザインにつなげていきましたが、ギリシアの衣服をモデルとしたデザインのデルフォスはシャネルのさきがけになって、いまもパーティードレスの原型になっているようです。服の製造と経営、産業機械の発明にも積極的に関わっていきました。この衣装の同時代の社交界へのインパクトについては、プルーストの『失われた時を求めて』の一節に証言があります。舞台芸術の設計に見せた工学的な才能は、他の分野にも発揮されたようで、船舶の装置など、様々な方面での特許もとっています。
「現代のダヴィンチだな」というようなことを思っていると、展示にそういう説明がありました。学芸員に呼ばれて来て、質問がないのも何だから、デザインにおける日本の影響についての説明をお願いしようか、と思っていたら、そのようなコーナーが用意されていました。ところどころに展示されていた写真も、記録のためのものの筈なのに独得な構図だなと思っていたら、写真のコーナーも最後の方にありました。展示のポイントを作品に語らせるということができていて、私は素直にそれに導かれていたというわけです。
ちょうど会期が半分終わって、作品の入れ替えがあったところだそうですが、お客の入りはもう一つというようなことを聞きました。洋服デザイナーとしての作品が広告の前面に出すぎているせいかもしれないと思いました。フォルチュニとは、芸術家、発明家、コレクター、経営者の複合体としての存在であり、現代に生きた巨人であったことが理解できる展覧会ですので、行ってみるとよいかと思います。
高名康文先生、どうも有難うございました!
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