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落合芳幾「東京日々新聞」が与える影響―版画家・松元悠さん

「アートアワードトーキョー丸の内2018」の三菱地所賞受賞者である松元悠さんが、
「芳幾の『東京日々新聞』は、自身の制作スタイルには欠かせない作品たちなのでとても楽しみです!」と当館で2023年2月25日に開催する「芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル」にコメントを寄せてくださいました。

本展覧会の主役である落合芳幾の、ジャーナリストとしての視点が、現在活躍する版画家にも影響を与えていたということで、「自身の制作スタイルには欠かせない作品」とは、どういうことなのか具体的にお伺いしたところ、お答えくださいましたので、本ブログでご紹介いたします。


『東京日々新聞』のどんなところを面白いと思われているのでしょうか?

―明治期におけるさまざまな出来事を、文字情報ではなく「ビジュアル」で訴えかけるメディアとして、その役割を果たしていたことに面白さを感じます。
 

例えば、太田記念美術館で2022年に開催されていた「信じるココロ―信仰・迷信・噂話」で見た「東京日々新聞第百一号 産婦の霊」(落合芳幾1833-1904)は、産後亡くなった母親が霊となって我が子に会いに来るという話が書かれていますが、文章の最後には「この話は虚説である」と添えられています。

文明開化の際の幽霊を信じないという風潮があっての一文だと思いますが、錦絵には我が子を大事そうに抱く母親の姿が確かに描かれていて、当時の風潮と「母親の霊が確かにそこにあってほしい」という人々の気持ちとが入り混じった不思議なメディアだと思いました。

その、「こうであってほしい」という個々の想いみたいなものは、ビジュアル化するからこそ、大衆メディアとして世の中に出せたのではないかと思います

当時彼らは、衰退していく「浮世絵」の代わりに「新聞」という媒体を選んだ訳ですが、現在活躍する松元さんには、彼らの選択はどのように見えているのでしょうか?

―当時の人々は、彼らの仕事によってリアリティへの意識が大きく変わったんじゃないでしょうか。文字情報としてあった新聞が、浮世絵からの流れで、娯楽のように気軽にニュースに触れられるようになった。時流を読んだ仕事の在り方は大変参考になります。

当時は新しいメディアの筆頭であった「新聞」という媒体が、今日では衰退するものとなりつつありますが、松元さんは「メディア」をどのように捉えていらっしゃいますか?
―紙媒体でのメディアが衰退している現状は嘆かわしいところですが、今だからこそ「紙である」ということがかえって強調されているのではないかと思います。私はBFK紙というリトグラフに適した紙を使って版画を刷りますが、イメージを刷りとって紙を持ち上げるときに、物理的な重さを感じます。

大袈裟かもしれませんが、メディアをつくる側としての触感や重みをそこで実感します。

メディアをどのように捉えているかについて、マス・メディアからの情報を受け取るということは、「他者の領域」に介入することだと思っています。それは言い方によっては暴力的な存在とも言えますが、一方で情報を受けた側の道徳観や倫理観、自身の本質などがむき出しになるきっかけになります。その人が何を信じるのかにも関わってきます。つまり、マス・メディアで報じられる当事者と、それらを消費する視聴者には、同じ環境下ではない中で、当事者同士が不在の、ある種のコミュニケーションが発生しているのではないかと思っています。

マス・メディアが報じる内容の真偽はともかくとして、そうしたメディアによる感情の伝達については興味があります。


東京日々新聞に影響を受けた作品があれば、とお伺いしたところ、「基本的にほとんど受けています・・・笑」というコメントと共に、こちらの作品をセレクトしてくださいました!
 
■「碑をキザむ(黒鳥山公園)」リトグラフ、BFK紙|490×650㎜|2020
某視聴者参加型バラエティ番組から、その後の裁判までを題材とした作品。
 
■「悪い神様の耳を食べる(佐野市)」リトグラフ、BFK紙|660×530㎜|2020
ママ友コミュニティで起こった事件と、その土地の郷土料理を用いた作品。
 
■「蛇口泥棒(長浜市、東近江市、砺波市)」リトグラフ、BFK紙|490×650㎜|2022
世界中の銅の高騰化、裁判所で被告が供述した子どもへの想いと実際の犯行ルートを辿った作品。
松元さんは、2022年12月21日~29日の期間に日本橋髙島屋S.C.本館6階美術画廊Aで開催の <「HANGA」 NEXT GENERATION 明日の星たち stage.3>に参加されます。

 ブログを読んで作品を見てみたい!と思われた方は、どうぞお運びください!


松元 悠
MATSUMOTO Haruka

偶然見聞きしたニュースメディアが報じる事件を基に、実際の現場に赴いて素材を収集し、一枚のリトグラフとして表す制作方法をとっている。1993年京都府生まれ 。2018 年京都市立芸術大学大学院美術研究科絵画専攻版画修了。個展に「架空の竜にのって海をこえて幻の島へ」(kara-S ギャラリー、京都、2021)、「独活の因縁|The Fate of an Udo」(Medel Gallery Shu、東京2020)、「活蟹に蓋」(三菱一号館美術館 、東京、2019)。グループ展に「一歩離れて / A STEP AWAY FROM THEM」(ギャラリー無量、富山、2021)など。受賞歴に「アートアワードトーキョー丸の内2018」a.a.t.m.2018 三菱地所賞、「Kyoto Artfor Tomorrow 2020 ―京都府新鋭選抜展―」京都新聞賞。収蔵に町田市立国際版画美術館、あきる野市。展覧会企画に「漁師と芸術家 ~琵琶湖を読む、琵琶湖を問う~ 」(大津市立和邇図書館、2022、共同企画者:駒井健也)。最近はNHK京都、大津をベースに法廷画を担当している。

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