2022年度「MUSEUM for All」活動報告/三菱地所株式会社のローカル5G環境を活用した実証実験
三菱一号館美術館は、さまざまな方々に美術館を身近に感じていただくことを目的に、2021年12月より「MUSEUM for All」プロジェクトを段階的に行っています。
2022年度は、館内に設置している三菱地所株式会社のローカル5G環境を活用し、①新技術を用いた新たな鑑賞体験「参加型ボイスストーリー at ヴァロットン展 powered by oto rea」と、②360度全周囲を撮影・伝送可能なシステム「JackIn Head」を活用した遠隔鑑賞 の実証実験を行いましたのでお知らせします。今回の実証実験の結果を踏まえ、今後も幅広い人びとへ開かれた美術館を目指した活動を続けて参ります。
なお、当館は設備入替および建物メンテナンスにより2023 年 4 月 10 日から 2024 年秋頃まで長期休館します。今後の「MUSEUM for All」プロジェクトの取り組みにつきましては、確定次第改めてお知らせします。
■三菱地所株式会社のローカル5G環境整備・活用リリース
(参考 https://www.mec.co.jp/news/archives/mec210720_local5g.pdf )
【2022年度「MUSEUM for All」プロジェクトの取り組みについて】
1. 新技術を用いた新たな鑑賞体験「参加型ボイスストーリー at 三菱一号館美術館<ヴァロットン展> “黒白の世界で謎の人物の素性を追え” powered by oto rea
2023年1月29日まで開催した「ヴァロットン―黒と白」の会期中に、全く新しい美術館の楽しみ方を体験できる音声MR体験イベント「参加型ボイスストーリー at 三菱一号館美術館<ヴァロットン展> “黒白の世界で謎の人物の素性を追え”powered by oto rea」を実施しました。
本コンテンツは、音の MR ※ (Mixed Reality:複合現実)を活用した非接触型サウンド空間体験サービス「oto rea(オトリア)*」をもとに開発されました。「oto rea」はユーザーの動作に合わせて、ユーザーのみが特別な音響を体験できるのが特徴です。現実空間をスキャニングしてつくられたデジタル空間に音データを配置し、それを現実空間で読み取ることで、現実空間とデジタル空間を融合した体験をお楽しみいただけます。
体験中は操作も不要で、ウェアラブルスピーカーによって、シームレスで没入感の高い体験をすることが可能となります。これらの特徴を活かし、展覧会を鑑賞しながら、謎の人物の正体を追うミステリアスなストーリーを展開しました。
今回の取り組みは、展覧会の内容に即した作品解説や音声ガイドとは異なる、美術館における別次元での新たな鑑賞体験をお楽しみいただく機会となりました。展覧会で与えられたものとは異なる文脈を付け加える余地が、開発されたといえます。あわせて、視覚障害者の方に向けた美術館コンテンツ開発の可能性を検証しました。
<実施概要>
実施期間:2022年12月9日~12月23日[休館日を除く13日間]開館時間中
参加人数:528名
参加費 :無料(但し「ヴァロットン展」の入館チケットは必要)
プロジェクト体制:
〇サービス提供 株式会社GATARI
〇コンテンツディレクション 株式会社乃村工藝社
〇シナリオ・ビジュアル制作 株式会社ハレガケ
〇コンテンツ制作協力 三菱一号館美術館
oto reaとは?
音のMR(Mixed Reality:複合現実)を活用した非接触型サウンド空間体験サービスです。 乃村工藝社のイノベーション・ラボラトリー「NOMLAB(ノムラボ)」がプロジェクトマネジメント・企画し、MR スタートアップである株式会社GATARIが提供するMRプラットフォーム「Auris(オーリス)」を活用して2020年にサービスの提供が開始されました。 複数の音を空間に配置し、顔の向きや動作に合わせて、ユーザーのみが得られる特別な音響体験を提供します。©乃村工藝社
アンケート結果
[参加者の方のお声]
・没入感がとても新鮮でした。これからの美術館博物館鑑賞の際にぜひまた体験したいです。普及を期待しています。
・美術館に行っても、作品をどう見て良いのかわからない私にとっては、作品や作者のことを知ると同時にストーリーを楽しめるので、またぜひ利用したいと思っています。
・視覚障害者のガイドをしています。美術館や博物館、展覧会に興味のある視覚障害者もいます。是非、普及して欲しいです。
2. 360度全周囲を撮影・伝送可能なシステム「JackIn Head」を活用した遠隔鑑賞実験
360度全周囲を撮影・伝送し、参加者同士でリアルタイムなコミュニケーションが取れる「JackIn Head」を活用して、三菱一号館美術館で開催した展覧会「ヴァロットンー黒と白」を、京都から遠隔鑑賞する実証実験を行いました。「JackIn Head」を通じた自由な視点の選択、双方向のコミュニケーションにより、美術館へお越しいただくのが困難な方にも展覧会をお楽しみいただく可能性を検証しました。美術館の通例では難しい「大きな声で会話しながらの鑑賞」も、この「JackIn Head」は可能にしてくれます。
また、他の映像メディアとは異なり、展示室の空間や雰囲気を把握しやすい点や、それにより双方向のコミュニケーションが活性化される点から、 「JackIn Head」は 鑑賞者の“能動的な鑑賞を引き出す”といった新たな実験結果も見えてきました。
<実施概要>
実施期間 :2022年12月19日
参加者 :芸術大学生15名
プロジェクト体制:
〇企画制作 JackIn Head チーム(株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所)
〇コンテンツキュレーション 三菱一号館美術館
JackIn Headとは?
ソニーコンピュータサイエンス研究所の副所長の暦本純一が提唱したコンセプト「JackIn」は、人間が他の人間や環境に没入し、その状況や体験を共有したり共同作業を行ったりする際のインタラクションの枠組みです。「JackIn Head」は、360度全周囲を撮影・伝送し、参加者同士でリアルタイムなコミュニケーションが取れる「体験伝送システム」。自由な視点の選択、自由なコミュニケーションにより、遠隔地からでも現場に行ったかのような主体的なイベント参加が可能となります。
現地にいる配信者であるBody Userが装着する360度ウェラブルカメラが映す映像を、配信を体験するGhost UserがPCやスマートフォンなどのマルチデバイスを介して見ることでできます。
JackIn詳細 https://www.sonycsl.co.jp/project/2350/
<JackIn Head概念図>
©ソニーコンピュータサイエンス研究所
遠隔鑑賞実証実験の様子
上、中央)美術館側 下)京都側
[参加者の方のお声]
・動画は一方的なものが多いし分からない部分は自分なりに調べていかないといけないが、本日のようなギャラリーツアーでは質問することができ、疑問点を無くすことが出来ました。
・オンラインなので後ろの人が作品を見えているかどうかを気にする必要がなく、作品を近くで見ながら話を聞くことが出来ました。
・遠方で行きにくい美術館でも、しっかり作品や雰囲気を感じることが出来ました。
・遠隔で美術館を巡れるという経験ができることは鑑賞の幅が広がり、これからの鑑賞体験の広がりを感じられてよいと思いました。
・動画のように一方的でなく、見たい方向を見れる、一緒に見ている人がいるなどは面白かったです。
・自分が美術館に行き、個別で話を聞きながら鑑賞しているという感覚になり、想像以上に満足出来ました。
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