本展の見どころ
Highlights

作品リスト

「ナビ派」結成と、影響を与えたゴーガンとゴッホ

ナビ派は印象派に続く世代の芸術家グループで、1888年から1900年頃のパリで起こった芸術運動の一つです。主要メンバーには、パリの画塾アカデミー・ジュリアンの生徒だったポール・セリュジエ(1864-1927)、ピエール・ボナール(1867-1947)、モーリス・ドニ(1870-1943)、エドゥアール・ヴュイヤール(1868-1940)、そして後に加わったフェリックス・ヴァロットン(1865-1925)らがいます。
ナビ派はゴーガンの総合主義や、対象を太い線で囲みその中を平らな色面で塗るクロワゾニスムに影響を受ける一方、ファン・ゴッホもまた若い芸術家たちを魅了しました。とりわけ二人の画家が力強い色彩や単純化された素朴な表現で描き出す「子ども」は、ナビ派の作家たちにもインパクトを与えたことでしょう。

フィンセント・ファン・ゴッホ
《マルセル・ルーランの肖像》

1888年 油彩/カンヴァス ファン・ゴッホ美術館蔵
Van Gogh Museum, Amsterdam
(Vincent van Gogh Foundation)

ナビ結成の経緯

ナビ派のリーダー格となるポール・セリュジエは1888年、ポン=タヴェン(フランス北西部、ブルターニュ地域圏)で、滞在中のゴーガンから教えを受けて、奥行きを作らず、極めて簡略化された線とヴィヴィッドな色面で構成されたほとんど抽象に近い絵画を描きました。セリュジエはこの絵をパリに持ち帰ると、アカデミー・ジュリアンの仲間たちは、その新しい美に魅了され、絵を《タリスマン(護符)》と名付けました。それをきっかけに結成された集団は、ヘブライ語で預言者を意味する「neviim」から派生して「ナビ派」と名乗るようになりました。

主な紹介作品
Main Works

路上の光景、散策する人々

ナビ派の画家たちは、都市とその活気に魅了され、大通りの雑踏に着想を得て数多くの作品を制作しました。彼らは都市生活者として、パリの街を隈なく散策し、街路で繰り広げられる光景を注意深く見ている観察者でした。日常の中に近代性(モデルニテ)と詩情を探し求めたナビ派の作品では、子どもたちの優しさと生命力、そして興奮と「小悪魔性」が綯い交ぜとなって、その光景が豊かなものになっています。

ピエール・ボナール

《並木道(連作『パリ生活の小景』より)》

1899年 リトグラフ/紙 三菱一号館美術館蔵

エドゥアール・ヴュイヤール

《乗り合い馬車》

1895年頃 油彩/厚紙 ハマー美術館蔵
© Hammer Museum.Photo: Robert Wedemeyer

ピエール・ボナール

《学童》

1900年 リトグラフ/紙
ボナール美術館蔵 © Frédéric Aubert

フェリックス・ヴァロットン

《可愛い天使たち》

1894年 木版/紙 三菱一号館美術館蔵

《『息づく街パリ』口絵》

1894年 ジンコグラフィ/紙 三菱一号館美術館蔵

《女の子たち》

1893年 木版/紙 三菱一号館美術館蔵

都市の公園と家族の庭

パリ生活において、公園や庭は自然の光景と生き生きとした人々が調和する場としてナビ派に好まれた理想的な主題でした。遊ぶ子どもたちや、会話を楽しむ家政婦や女性たちで賑わう庭園の様子を、それぞれの画家が独自のアプローチで描き出しています。庭園は外界から保護された「閉じた世界」として、画家たちが子どもの諸相を描くための格好の題材となったのです。

ピエール・ボナール

《ル・グラン=ランスの家族》

1899年頃 油彩/厚紙 個人蔵 © Frédéric Aubert

アリスティード・マイヨール

《若い少女の胸像》

1891年頃 油彩/カンヴァス マイヨール美術館蔵
photo © Jean Claude Brunelle

モーリス・ドニ

《赤いエプロンドレスを着た子ども》

1897年 油彩/厚紙 個人蔵

アルフレド・ミュラー

《ピクニック》

1903年 リトグラフ/紙 個人蔵 © Les Amis d'Alfredo Muller

家族の情景

ナビ派の画家たちは自分を取り巻く家族を題材にして、子どものいる日常がもたらす幸福と喜びを繰り返し描きました。なかでもドニは自身の9人の子どもたちを数多くの作品に記録し、ボナールは妹のアンドレの子どもたちを、ヴュイヤールは姉のマリーの娘を題材に、家族が共に過ごす愛情に満ちた時間を描き出しています。

ピエール・ボナール

《家族の情景》

1893年 リトグラフ/紙 三菱一号館美術館蔵

ピエール・ボナール

《子どもたちの昼食》

1897年頃 油彩/板 ナンシー美術館蔵 
Photo © RMN-Grand Palais / Agence Bulloz / distributed by AMF

ピエール・ボナール

《家族の情景》

1893年 リトグラフ/紙 個人蔵 © Frédéric Aubert

モーリス・ドニ

《サクランボを持つノエルの肖像》

1899年 油彩/厚紙 個人蔵
Catalogue raisonné Maurice Denis, photo Olivier Goulet

ピエール・ボナール

《歌う子どもたち(シャルルとジャン・テラス)》

1900年 油彩/カンヴァス ボナール美術館寄託
Dépôt de la Succession Terrasse © droits réservés

モーリス・ドニ

《子ども部屋(二つの揺りかご)》

1899年 油彩/カンヴァス 個人蔵(モーリス・ドニ遺族)
copyright Catalogue raisonné Maurice Denis, photo Olivier Goulet

挿画と物語、写真

ナビ派は子どもを描いただけでなく、子どもたちの活動にも関心を抱き、彼らのための作品として塗り絵アルバムや楽譜の挿絵、物語の挿絵本なども手掛けました。一方、常に新しい技術に敏感だった彼らは、持ち運び可能なカメラを愛用し、身の回りの子どもたちの姿や家庭の幸福な情景を写真に記録しました。

ピエール・ボナール

《ヴュイヤールとルネ》

1900年 モダン・プリント ボナール美術館蔵
Archives musée Bonnard, Le Cannet – © musée d‘Orsay – Patrice Schmidt

モーリス・ドニ

《最初の風景》

1912年刊行 挿絵本 個人蔵

© Sabrina et Gilles Genty

エピローグ ー永遠の子ども時代

1900年以降ナビ派の画家がそれぞれの道を歩む中、ボナールは南仏ル・カネに拠点を移し79歳でその生涯を閉じるまでこの地で制作しました。アトリエにこもって周囲の風景や日常のささやかな情景を輝かしい色彩で描くことに専念する中、終生関心を持ち続けた純粋な子どもの魂へ回帰した晩年の作例は、児童画を思わせる自由闊達な筆によりボナールの描く「子どもの世界」の到達点と言えるでしょう。

ピエール・ボナール

《雄牛と子ども》

1946年 油彩/カンヴァス 個人蔵 Collection Prof.Mark Kaufman

ピエール・ボナール

《大装飾画、街路風景》

1905年頃 油彩/カンヴァス 個人蔵 © Frédéric Aubert

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