展示構成

作品リスト

新しいエレガンスに向けて

ガブリエル・シャネルは、婦人用の帽子デザイナーとしてキャリアをスタートさせました。その後、上流階級の社交界から感じ取れる自由な精神に着想を得て、フランスの港町ドーヴィル(1912年)とビアリッツ(1915年)にブティックを構えました。初期のデザインは、19世紀の装飾的で身体を締め付けるファッションに対し、シンプルで動きやすく、機能的でありながらエレガントな美しさを取り入れています。

ドレスとジャケットのアンサンブル
ドレスとジャケットのアンサンブル
1922-1928年 絹ジャージー
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

スタイルの誕生

シンプル且つ若さ溢れるスタイルからは、シャネルの服装が、何よりも快適さ、エレガンス、実用性、着心地の良さを重要視していることが分かります。1920年代から、彼女が考案した柔らかく仕立てられたデイウェアは何層もの下着やコルセットといった装いから女性たちを解放し、若々しく自然な身体のラインを強調するものでした。軽い素材やモノトーンカラーの採用にこのシンプルな表現が現れており、のちに彼女のトレードマークとなりました。さらに目を引くのは、シャネルによるデザインの表現法として、プリントやフラワーモチーフの卓越した扱い方です。この作品群は様々なテキスタイルを駆使しながら自然主義的で抽象的なモチーフを表現しています。1928年からは、シャネル織物社がシャネルのコレクションのために特別なプリントを制作しました。

ドレスとスカーフのアンサンブル
ドレスとスカーフのアンサンブル 
1930年頃 プリントのクレープ・デシン 
パリ、ガリエラ宮 ベルタン夫人より寄贈 ©Julien T. Hamon

現代性 モデルニテ の究極のシンボルとして広まった「リトル・ブラック・ドレス」に続き、イヴニングウェアにおけるシャネルの先駆的な黒の扱い方を紹介します。
禁欲的なフォルムと装飾を融合させた、黒の取り入れ方は、シャネルの重要なレガシーのひとつでもあります。
この作品群は、抑制的なエレガンスというヴィジョンを表明するために、シャネルがどのようにシルク、サテン、チュール、クレープなどの異なる素材や技術、装飾を利用したかを示しています。

ドレス
ドレス 
1936-1937年秋冬 蝋引きしたレーヨンのクロッケ
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

N°5:現代女性の
目に見えないアクセサリー

シャネル N°5はネーミング、デザイン、調香の面で、20世紀初期において革新的な香水でした。1921年に調香師のエルネスト・ボーが調香したもので、独特の「抽象的な」香りは初の合成香料をアクセントとして、大量に使用した初めての香りであり、80種類以上の香料を含んでいます。黒のラインで縁取り、サンセリフ体で品名を記した白いボール紙製の箱に収められた透明な四角いガラスボトルの香水は、シャネルのミニマリスト的なデザイン言語の延長線上にありました。N°5は瞬く間にメゾンの顔となり、世界で最も売れる香水となったのです。
さらに、変化する女性のライフスタイルの要望に応えて、1924年からはメークアップコレクション、1927年からはスキンケア製品を手掛けるようになりました。リップスティック、コンパクトパウダー、マッサージオイル、トラベルソープなどの他、1932年には日光浴人気の高まりを受け、サンタンオイルが加わりました。

香水「シャネル N°5」
香水「シャネル N°5」 1921年 ガラス、木綿糸、封蝋、紙
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

抑制された
ラグジュアリーの表現

1930年代は、シルエットへの彼女の意識が最も強く表現された時代でした。このセクションでは1920年代から30年代を通じて、シャネルの抑制された、あるいはさりげない贅沢さという哲学を見ていきます。そこには素材と形態との一貫した関係性や、衣服と身体の間にある距離感が認められます。

これらのドレスは身体をあるがままに表現しています。様々なバランスの調和、素材と形態との一貫性に彼女の簡潔さへの追求が改めて見て取れます。シャネルの中で、この衣服と身体の間にある距離感というアリュールは、厳粛さの強要から完全に解放された、エレガンスと自由の感覚から生まれています。

ケープ
ケープ 
1923年 絹サテン、絹とウールのサテン・ステッチ
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
Allure
アリュールが示しているのは、シャネルが取り入れた豊富な素材と専門的なオートクチュールの技法による贅沢さとライフスタイルの概念です。
Lightness and refinement
優美なレースのガウンやチュールのイヴニングウェアに代表される、シャネルの「ロマンティック」時代と呼ばれる作品には、軽やかさと洗練性が表現されています。
Balance
伝統的なパターンより着想を得た作品群からは、シャネルが取り入れたオートクチュールの刺繍技法の見事な調和が見受けられます。1922年に制作された一着の毛皮のコートは、中央アジアのモチーフが全て手作業の刺繍が施されています。
Restraint and profusion
羽やビーズを用いた作品など、シャネルが取り入れたオートクチュールの装飾技法の中には控えめな贅沢さが際立っています。彼女のデザインにおいて、モノトーンの配色は装飾と生地の一体感を強調しています。

スーツ、あるいは自由の形

15年間の活動休止の後、シャネルは1954年にクチュール・ハウスを再開しました。控えめな上品さと実用性を兼ね備えた装いという彼女の主張は変わっていませんでした。精巧に作り込まれた「ニュールック」への反論として、シャネルは芯地、ショルダーパッドやダーツ、襟がなく、代わりに、ポケットが付いたストレートなラインの柔らかなテーラーメイドのスーツを発表しました。これは特別に織られたループ・ツイードをブレードで縁取ったものです。ジャケットのライニングに合わせたブラウスと一緒に着る軽やかなアンサンブルは、女性が自由に動くことを可能にしました。展示する10着のスーツはいずれも、現代の女性らしさというシャネルのマニフェストの本質に基づく明確な特徴を持ちながら、それぞれのデザインが僅かに異なっています。実用的なポケットからゴールドチェーンにいたるまで、このスーツはフォルムとバランスが美しく調和しています。

テーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルトテーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルト
テーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルト 1965年春夏
ウールツイードと絹シェニール、手彩色のガラリット、絹ガーゼ 
パリ、ガリエラ宮 
©Julien T. Hamon
テーラードのジャケットとスカート
テーラードのジャケット
テーラードのジャケットとスカート
1971年春夏 絹クレープ、ガラリット、メタル 
パリ、ガリエラ宮 マントゥ夫人より寄贈 
©Julien T. Hamon

シャネルの 規範 コード

「2.55」 バッグ
「2.55」 バッグ 
1955-1971年 羊革のキルティング、メタル、回転式の留め具 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

顧客の衣服に合わせて初めてハンドバッグを作った1920年代から、アクセサリーはシャネルの作品の重要な部分を占めていました。1955年、シャネルは長さを調節できるストラップの付いたキルティングのフラップバッグ、「2.55」バッグを発表しました。実用性を重視したガブリエルがデザインしただけあり、このバッグは回転式の留め具、メタルチェーンストラップ、小さな内ポケットを備え、サイズとマテリアルが異なる3種類が発売されました。
1957年に発表されたバイカラー・シューズも機能性と美しさを兼ね備えたものです。つま先のブラックのレザーは摩耗しにくく、足を小さく見せ、ベージュのレザーは脚を長く見せることを意識したものです。非対称なストラップ、計算された理想的なヒールの高さによって履き心地の良さと動きやすさを実感させます。

テーラードのジャケットとスカート
シャネルのクリエイション、マサロ製作 バイカラー・シューズの原型 
1960-1962年頃 子山羊革、絹サテン 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
「2.55」 バッグ
「2.55」 バッグ 1955-1971年 羊革のキルティング、メタル、回転式の留め具 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
テーラードのジャケットとスカート
シャネルのクリエイション、マサロ製作 
バイカラー・シューズの原型 

1960-1962年頃 
子山羊革、絹サテン 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

ジュエリーセット礼賛

テーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルト
シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作
クロスのペンダントトップ 
1960年代 ブロンズ、メタル 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

すでに1920年代には、ジュエリーはシャネルの作品群の中で重要な位置を占めていました。シャネルは本物のジュエリーとコスチュームジュエリー、パール、メタルを組み合わせて自身のデザインしたシンプルな衣服に華やかさを加える様々なフォルムを生み出し、確立された当時のファインジュエリーの常識に挑戦しました。節度と華美、ジュエリーとコスチュームジュエリーのコントラストを楽しんだのです。シャネルは当時の流れに挑む様々な装飾品を創作し、自ら身に付けていました。何連もの「パールの」ネックレス、ガラスやクリスタル、ソートワールやチョーカーをイアリング、ブレスレット、ブローチなどと組み合わせ、自身がデザインしたシンプルな衣服に合わせました。メゾン・グリポワや ロベール・ゴッサンスといった著名な宝飾工房や金細工師と協力することで、シャネルのデザインの着想源は歴史的なもの、エキゾチックなものから象徴的なものや特定の個人を対象にしたものまで幅を広げました。

シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 プラストロン(胸飾り)
シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 
プラストロン(胸飾り)

1960年代 シルバー、ゴールド、メタル、ロック・クリスタル
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

本展覧会で注目すべき作品は、ファッション雑誌編集者のダイアナ・ヴリーランドが所有していた、色のついた大きなカボションをあしらった2つの金のブローチです。これはビザンチンモザイクからインスピレーションを得て、メゾン・グリポワとのコラボレーションにより生まれました。また、ロベール・ゴッサンスのベルメイユとクリスタルを使ったネックレス、ベルメイユとガラスペースト技術を用いたブレスレットも見逃せません。

シャネルのクリエイション、ロべール・ゴッサンス製作 ブレスレット
シャネルのクリエイション、ロべール・ゴッサンス製作 ブレスレット
1960年代 シルバー、ゴールド、メタル、パート・ド・ヴェール 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
テーラードのジャケット、スカート、ブラウスとベルト
シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 クロスのペンダントトップ 
1960年代 ブロンズ、メタル パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 プラストロン(胸飾り)
シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 プラストロン(胸飾り)
1960年代 シルバー、ゴールド、メタル、ロック・クリスタル
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
シャネルのクリエイション、ロべール・ゴッサンス製作 ブレスレット
シャネルのクリエイション、ロべール・ゴッサンス製作 ブレスレット
1960年代 シルバー、ゴールド、メタル、パート・ド・ヴェール 
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

蘇った気品

このセクションでは、シャネルが自身の初期のキャリアにおいて大切にしていた基本に立ち戻り、衣服における自由、動きやすさ、エレガントなシンプルさを伝えていったのかをたどっていきます。
本展の最後を飾るのは、シャネルの象徴的な色であるホワイトとゴールド、レッドとブラックを使った一連のドレス、イヴニングウェア、カクテルドレスです。シャネルの作品が今日でも支持される背景にある彼女の根本的な思想を振り返ることができます。
ワイルドフラワーと金色に実った麦の穂を装飾的なモチーフに用いた刺繍ドレス、またガブリエルにとって最後となった1971年春夏コレクションの作品にもご注目ください。
さらに、ここには贅沢にジュエリーをあしらうことを好んだ、シャネルのテイストがうかがえる、金糸を用いたドレスも展示します。

ドレスとスカーフのアンサンブル
シャネルのクリエイション、ロべール・ゴッサンス製作 ベルト
1971年春夏 メタル、パート・ド・ヴェール、コスチューム・パール
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon
イヴニング・ドレス 1971年春夏 絹モスリン、金糸のブロケード
パリ、パトリモアンヌ・シャネル ©Julien T. Hamon

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