歴史資料室にて開催中「樹について」 作家インタビュー!①
皆さま、こんにちは。
本日は現在、三菱一号館・歴史資料室にて開催されている、個展「樹について」(~5月22日)の作品の制作者である、
田中彰さんのインタビューをご紹介いたします。制作過程のエピソードや、作品の背景などのお話を伺いました。
作品ひとつひとつについて、とても興味深い内容です。作品をご覧になった方も、そうでない方もお楽しみ頂けます!
(聞き手:当館学芸グループ長・野口玲一)
1、fragment of MALTAMIRA
版画を制作する前は、洞窟壁画に興味がありました。
この木はもともと、高さ4メートル、直径が130センチ、重さ4トンの丸太でした。
撮影:木奥惠三
Photo: Keizo Kioku
―丸太は初めからくりぬかれていたのですか?
丸太は蜂の巣のようにドリルで穴をあけ、鑿を使って彫りました。トンネルを掘るように両サイドから中心に向かって
彫り進めます。約8か月かかりました。重労働で、終わる頃には体重もだいぶ減ってしまいました。くりぬいた後は、
鑿で表面を削り滑らかに整えます。作品の中をくぐり抜けられるようにしていたので、人がたくさん丸太を通ることで、
だんだん滑らかにつるつるになっていきました。
木は、幹の中心に一番生命力があります。その中心部分から削っていったので、彫る際には、木の生命力を奪ってしまう
という罪悪感がありました。それもあって彫った木の破片も全て捨てずに保管してあり、別の作品に生まれ変わったもの
もあります。
―洞窟壁画に興味があったということですが、丸太の内部を洞窟に見立てたのでしょうか。
絵のモチーフはどこからきているのでしょう。
丸太の中に描かれている絵は、保育園児の時に見た夢の風景です。目が覚めてその洞窟を当時、紙にスケッチしました。
その風景にもう一度行ってみたいという願望から生まれたのです。
描いた絵はふるさとのイメージと重なる部分が多くあります。
この丸太は最終的に20個に分割して、展示された現在の姿になりました。
(あまりに大きな作品で置き場所に困ってしまい)丸太の状態を保つか、カットするか1年くらい悩みました。ただ、
切るならば自分の手で切りたいと思っていました。木との対話の結果、カットして丸太から絵が出てくるという形にする
ことが最終的な答えになったのです。
―木とのやりとりを通して、作品の姿も変わっていったのですね。
丸太をくりぬき、残った木片からも作品が生まれ、一つの形にとどまらずに徐々に形を変えていく。
木が別の生命を持っているようにも見えないでしょうか。この丸太は例えば、仏像でも、テーブルでも、
何になっても良かったのであって、たまたま洞窟になったという感じがありました。この体験を通して、
作品を作るということに縛られず、とても自由になった気がしました。
版画でいえば、木というものは版のための版木であるという以前に、生命を持った木であったということに気付いた。
ハンコになる可能性もあったし、いろいろな可能性があったということです。
―田中さんの考え方の、技術を洗練させていくのではなく、より原初的な方向へ遡っていこうとする方向性が、とても
独特なものに感じます。ベクトルが普通の版画家の目指すものと全く逆をいくようなところが大変興味深いですね。
撮影:木奥惠三
Photo: Keizo Kioku
次回に続く
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