【エッセイ】音楽とアート―ロック・ギタリストの出自
皆さまこんにちは。この度は、「新しい私 書店」のオープン2周年を記念して発行した「新しい私 書店」通信に掲載されやエッセイをブログでもご紹介します。冊子を入手することが難しい遠方の方なども、こちらのブログでお楽しみいただければ幸いです。
アートと音楽。近いような遠いような二つのジャンル。英国を代表するミュージシャンとアートには、意外なつながりがありました。
エリック・クラプトン、ジェフ・ベック、ジミー・ペイジと挙げて、三大ロック・ギタリストと呼ぶのをしばしば耳にする。ブルースやロックン・ロールを基にそれぞれ独自の演奏スタイルを築き、ギターをロックにおけるもっとも華々しい存在へと引き上げた。その音楽的ルーツや出身が近い、あるいは同じバンドに在籍していたことの他に、彼らの出自において意外な共通項があることをご存じだろうか。三人ともにアート・スクールに通っていたことである。
彼らに限らず60年代の英国ロックの立役者たちにはアート・スクール出身者が多く、キース・リチャーズ、ジョン・レノン、フレディ・マーキュリー等々と枚挙に暇がない。アート・スクールといってもレベルは幅広く、職能を伝える専門学校的なところから芸術大学に至るまで一概に言えないようだ。とはいえ当時の英国の若者にとって、そこはモラトリアム的な時間を過ごすに適した場所だったらしい。社会人にはなりたくない、かといって学問的に向上を志すでもない、中途半端な状況だが、そこで仲間を作り自分の才能を見出したい、そんな者にとって一種の避難所のように機能していた。
彼らの多くが、はじめはアートに興味をもって進学するが結局成就せず、もうひとつの道に進むことになった。彼らは必ずしも熱心にはアートを学ばなかったかもしれない。しかしそこに在籍したことは、彼らのその後の意識に刻印を残したように思える。自らをアーチスト、表現者として位置付ける態度、長髪やファッション、レコードジャケットのデザインなど、視覚的な表現についてのこだわりは、彼らがアート・スクールに在籍したことの影響と言えるのではないか。
下記の自伝が入手可能なジミー・ペイジは、アート・スクール出身であるばかりか、ここで詳述できないが、ラファエル前派のコレクターでもある。ジェフ・ベックの伝記も、絶版だがクラプトンの自伝はまだ一部のサイトなどで入手可能なようだ。彼らの青年期の環境にアートがあったこと、その重要性について考えてみたい。
『奇跡―ジミー・ペイジ自伝』
ブラッド・トリンスキー(著)、山下 えりか(翻訳)
ロッキングオン
「新しい私 書店」とは
三菱一号館美術館の「新しい私に出会う、三菱一号館美術館」というブランドスローガンをコンセプトにして生まれた架空の本屋さんです。普段はWEBの世界からさまざまなテーマを設けて、協力書店さん(紀伊國屋書店 大手町ビル店、丸善 丸の内本店、三省堂書店 有楽町店)にご協力いただき、「新しい私に出会う」きっかけとなる本をご紹介しています。
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