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埋もれた巨匠を発掘!⑤:オスカー・ココシュカ

皆さま、こんにちは。

本ブログでは、「フィリップス・コレクション展」に関連した、「埋もれた巨匠を発掘!」シリーズをお届けしています。ロジェ・ド・ラ・フレネ、ハインリヒ・カンペンドンク、アドルフ・モンティセリと3人の埋もれた巨匠をご紹介し、皆さまの投票によって、新たに発掘したい画家として、フアン・グリスとオスカー・ココシュカが選ばれました。

「埋もれた巨匠を発掘」最後の画家は、今回の展覧会でその魅力に取りつかれた人も多い、ココシュカをご紹介します。解説は既にお馴染み、本展担当の安井学芸員。

―オスカー・ココシュカ。初めて名前を聞いたときに勝手に女性かと思いました……。男性なんですね。

はい。このココシュカという人は、美術史の中では、なかなか1つのカテゴリーにピタッとはまらない人なんです。ドイツの表現主義に入れるしかないかな、といった所でしょうか……。そんなこともあって、少々取り扱いづらい画家になり、埋もれてしまった感じがしますね。

「埋もれた巨匠」として注目されると改めて気づきますが、やはりアーティストにとって重要なのは、作品を見られる機会がなくなると死んでしまう(忘れられてしまう)という事です。実物が見られないことは、画家にとって致命的です。ココシュカも根強いファンはいると思いますが、現在それほど有名(巨匠感がある!)というわけではありませんね。

ですがココシュカは、生前においては成功した画家と言えると思います。彼は93歳と長生きした画家でもありました。1880年代に生まれて1980年代に亡くなっている。日本で言うと、当館で開催した展覧会「拝啓 ルノワール先生」の主役、梅原龍三郎画伯と同じ世代なんです。ココシュカの生前に、日本でも展覧会が開かれていますよ。

フィリップス関連でいえば、当時のフィリップス・ギャラリーがアメリカで初めてココシュカの展覧会を開催しました。そして、その展覧会でココシュカがレクチャーを行っています。非公式のものだったらしいですが。
画家本人がレクチャーを行ったという事自体がひとつ記念的なことです。


―画家が作品についてレクチャ―をするというのが、そんなにすごい事だったんでしょうか?現代において生きているアーティストが自分の作品について語ることは、割とあることのような気がするんですけれども。

ココシュカは当時スイスに暮らしていました。外国人の画家の個展がアメリカで開かれ、そしてレクチャーをする機会があった、というのはすごいことだと思います。外国人の画家が、外国で個展を開催してもらい、自分の作品について画家が語るチャンスがあったこと自体、珍しいことだった。

―現代とは違い、当時は海外での個展も、それについて語る機会というのも、少なかったのですね。

これだけ生前には評価されたココシュカですが、本人が亡くなってから急速に忘れ去られてしまった印象です。彼はオーストリア人ですが、スイスのコレクションにはよく収蔵されています。
ココシュカの代表作として、スイスにあるバーゼル美術館所蔵の《風の花嫁》がありますよ。とても重要な作品なので機会があれば、ぜひご覧になってください。《風の花嫁》は相当インパクトがある作品です。カタログで見るとおとなしいというか、割と普通な感じがするのですが、実物を見ると、強烈なインパクトがあります。

―本展に出品されている《ロッテ・フランツォスの肖像》も、実物を見るまでは穏やかな女性を描いた作品ような気がしていたんですけれど、実際に見ると少々不気味な印象を受けました。

確かに、なんとなくまがまがしい感じはありますよね。人間の情念みたいなものが感じられたり。よくも悪くも何かが出ているような気がします。ココシュカが表現主義と言われるのはこのあたりからです。ちなみに、表現主義の元をたどっていくとフォ―ビスムにたどり着きます。

人の神経が高ぶった時のビリビリした感じがあるじゃないですか。この作品も、自身が帯電しているかのような青のオーラが作品から出ているようにも見えます。フランツォスがそうだったと言うより、ココシュカ自身がそのように感じたのではないかと思います。彼の感受性は繊細すぎたのかもしれません。
彼女に対して、ココシュカは恋愛感情をもっていたとも言われているので、そういった感情も表れていたのかも知れませんね。
ココシュカ自身が、モデルとなったロッテ・フランツォスに対する手紙で、この作品を見て、貴方も衝撃を受けたであろうと言ったほどです。
本展では2点のココシュカの作品が展示されています。風景画《クールマイヨールとダン・デュ・ジェアン》は、実物を近くで見ると、いったい何が書いてあるのかよくわからないくらいに抽象化が激しい作品です。やはり表現主義としか言いようがない筆跡ばかりが目につきます。
抽象と具象のバランス、緊張感がよく伝わってくる作品だと思いますし、この作品は絶対フィリップスが好きだったのではないかと。

フィリップスはココシュカについて「あなたは史上もっとも優れた風景画家であると同時に、人の心理を描くことにもっとも長けた肖像画家のひとりであると考えています」との言葉を残しています。

さらに、展示に関して言えば、今回の展覧会で、展示を組み合わせるのが難しかった作品でもあります。《クールマイヨールとダン・デュ・ジェアン》と《嵐の後の下校》この2枚を並べるという提案は、フィリップス・コレクションからだったのですが、人間の心の不安という具象と抽象との緊張感のあるバランスが、どちらの作品もよく捉えられています。
「具象と抽象とのバランス」という考え方はダンカン・フィリップスにとって重要でした。

―ちなみに今回の展覧会で、ココシュカの作品が気になったという意見をちらほら伺いますが、人物画《ロッテ・フランツォスの肖像》と風景画《クールマイヨールとダン・デュ・ジェアン》のどちらのことを指しているのか気になりますね。

確かに。かつて日本で開催されたココシュカ展のカタログをみると、圧倒的に人物画が多いです。もし一度にすべて見る機会があるとすれば、気持ちが悪くなりそうな気もしますが(笑)。《ロッテ・フランツォスの肖像》もずっと見ていると、危機迫るものがあって、とても密度が高い感じがします。この作品を見ていると、(精神状態にもよりますが)ゴッホが可愛らしく感じられるほどです。

ところで、ココシュカは、人物としてはエピソード満載です。例えば、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子にとても嫌われていて、そのことが、ウィキペディアにも載っていたりします(笑)。

また恋愛面でもかなりインパクトのある行動をしています。作曲家のグスタフ・マーラーが亡くなった後、その未亡人アルマ・マーラーと恋愛関係になったのですけれども、二人の関係はココシュカの第一次世界大戦への出兵でその関係は終わってしまいました。その後、そんな最愛の?!女性をかたどった、アルマ人形と行動を共にしていたりもしました。アルマ人形の姿が画像で残っていますが、ぞっとします。

―色々とインパクトのある、オスカー・ココシュカ。ぜひフィリップスコレクション展で実際の作品をご覧ください!

「フィリップス・コレクション展」
◆会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)

<これまでの埋もれた巨匠を発掘!記事はこちらからもご覧いただけます>

ロジェ・ド・ラ・フレネ
ハインリヒ・カンペンドンク(前編)
ハインリヒ・カンペンドンク(後編)
アドルフ・モンティセリ
フアン・グリス(前編)
フアン・グリス(後編)

 

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