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埋もれた巨匠を発掘!②:ハインリヒ・カンペンドンク<後編>


皆さま、こんにちは。

本ブログでは、前回に引き続き次回開催予定の「フィリップス・コレクション展」に関連した、「埋もれた巨匠を発掘!」シリーズをお届けします。

前回に引き続き、ご紹介するのは「ハインリヒ・カンペンドンク」(1889-1957)。この画家の作品が、なぜコレクションに加わることになったのか?今回もフィリップス・コレクション展を担当する安井学芸員にお話を聞いていきます。

――ところで、カンペンドンクはなぜ、フィリップス・コレクションに加わったのですか?

フィリップス・コレクションには、カンペンドンクのような「青騎士」の画家は、二人の例外を除いて、受け入れられていませんでした。
その例外の二人というのは、パウル・クレーとヴァシリー ・ カンディンスキーです。フィリップスはこの二人を大変高く評価していました。
ワシリー・カンディンスキー 《秋 Ⅱ》 1912年 油彩/カンヴァス Acquired 1945 フィリップス・コレクション蔵

特にクレーのことをフィリップスはとても気に入っていました。フィリップスが気に入っていた画家たちについては、その画家専用の展示室を用意して、一室全体を一人の画家で埋うめつくしていました。
フィリップスは「ユニット」という言い方をしたのですが。クレーはまさに“ひとかたまり”になるほど多くの作品を集めていたのです。

――カンペンドンクがフィリップ・スコレクションに入った説明にはなっていませんね(笑)

ははは、失礼しました。
カンペンドンクがフィリップス・コレクションに加わるきっかけは、1952年にキャサリン・ドライヤーというコレクターが亡くなったことです。

――??

キャサリン・ドライヤーというコレクターの死後、1953年にフィリップスにコレクション寄贈の申し出があったのです。
ちなみに、その申し出をしたのは前衛芸術家として知られていた、マルセル・デュシャン。彼は、キャサリン・ドライヤー、マン・レイといった仲間とソシエテ・アノニムという組織を運営し、作品を保有していました。

―フィリップスさんは寄贈を受け入れたのですね!

その質問には、「はい」とも「いいえ」ともいえます。
フィリップスさんの対応が面白いところであり、フィリップスさんらしいといえます。彼は、すべての作品の寄贈を受けたわけではありません。申し出の中から、彼のコレクションにふさわしい作品を選ばせてほしいと主張し、コレクションの基準にあったものだけを受け入れたのです。

この時に、カンディンスキーとマルクだけでなく、カンペンドンクが見事に彼の審美眼に叶い、コレクションに加わったというわけです。

それまでのフィリップス・コレクションは、フランスやアメリカの画家が中心でしたが、このタイミングでドイツ系の画家たちが増えました。
そのなかで、カンペンドンクと共に双璧をなすのは、フランツ・マルクです。マルクは考え抜かれた、大変洗練された構図で虎や鹿といった動物を描いています。

一方のカンペンドンクは、素朴な芸術、例えばアンリ・ルソーと共通するプリミティヴな作品です。これまでのフィリップスの好みとは、少し異なる印象を受けますね。


ハインリヒ・カンペンドンク《村の大通り》 1919年頃 油彩/カンヴァス Gift from the estate of Katherine S. Dreier, 1953

ただ、このカンペンドンクの作品をコレクションの中に並べてみると、明るい色彩であったり、暗い部分にぱっと浮かび上がるように見える動物がフィリップスの気に入ったのか、彼のコレクションに加えられたのだと思います。ここにも、フィリップス独特の審美眼、コレクションの基準を垣間見ることが出来ます。

――全ての作品の寄贈を受け入れるのではなく、あくまでも自身のコレクションに合うものだけを選ぶとは、フィリップスさんのこだわりはすごい!カンペンドンクがコレクションに入ったのは、キャサリン・ドライヤーさんのおかげでもあるのですね。

キャサリン・ドライヤーは、デュシャンとともに広く前衛芸術を紹介していました。そして、カンディンスキーをはじめ、マルク、カンペンドンクなど青騎士の作品を購入していたのです。

しかしながら、カンペンドンクのプリミティヴな表現に惹かれていたという精神性を考えると、フィリップスの好みとは、少々ずれていた。ドライヤーが亡くなる時に、フィリップスに寄贈する意思を示さなかったら、フィリップスはカンペンドンクの作品を受け入れなかったと思います。

――「青騎士」と共に、独特の作風の秘密が少しわかりました!実際の作品を観るのが楽しみです。さて、「埋もれた巨匠を発掘!」はまだまだ続きます。次回は誰が登場するのかお楽しみに!


「フィリップス・コレクション展」
◆会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)

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