埋もれた巨匠を発掘!②:ハインリヒ・カンペンドンク<前編>
皆さま、こんにちは。
本ブログでは、前回に引き続き次回開催予定の「フィリップス・コレクション展」に関連した、「埋もれた巨匠」シリーズをお届けします。今回の画家は、「ハインリヒ・カンペンドンク」(1889-1957)。皆さまはこの画家をご存じでしょうか?
さて、今回もフィリップス・コレクション展を担当する安井学芸員にお話を聞きました。
――本展のチラシに描かれている鹿の絵がとても可愛く、目をとめました。けれども、聞いたことのない名前だったので、どんな画家なのか気になっています。
「ハインリヒ・カンペンドンク」(1889-1957) について教えてください!
ハインリヒ・カンペンドンク《村の大通り》 1919年頃 油彩/カンヴァス Gift from the estate of Katherine S. Dreier, 1953 フィリップス・コレクション蔵
実は私も大昔は、カンペンドンクはマルク・シャガールやヴァシリー ・ カンディンスキーのようにロシア出身かな?と思っていたのですが、ドイツ出身の画家でした。
彼は主にミュンヘンで活動していましたが、ヒトラーが台頭してきたことにより、ニューヨークに亡命します。その後、オランダ・アムステルダムに移り国立アカデミーで教鞭をとっていたこともありました。第二次世界大戦後にドイツに戻り1957年に亡くなっています。
そして、カンペンドンクは「青騎士」の重要な一人であるといえます。
――青騎士……。聞いたことがあると思ったら、当館で2010年に「カンディンスキーと青騎士」展を開催しましたね!改めて「青騎士」について説明して頂けると助かります。
はい。もちろん。「青騎士」というのは、カンディンスキーとフランツ・マルクによって編集された出版物のタイトルからきています。
目に見える形にとらわれず、精神的なものを重視し、自由な色彩とによる表現が特徴です。「青騎士」というはっきりとした芸術集団として活動していた訳ではありませんが、中心となったカンディンスキーとマルクの二人は、彼らの芸術理念に共鳴した芸術家たちと共に、「青騎士」の名を冠した展覧会も組織しています。
「青騎士」の活動自体は第一次世界大戦の影響により、短命に終わってしまったのですが、その名は抽象絵画の先駆者、カンディンスキーの偉業と共に20世紀美術の歴史に刻まれています。
また、「青騎士」のメンバーは中世や原始の芸術に興味を持っていました。ドイツのバイエルンであるとか、ロシアの土着的な民芸と言いますか、その土地に根付いている民衆芸術に影響を受けています。
――カンペンドンクの作品にもその影響がみられるのでしょうか?
フィリップス展のチラシにも掲載されている《村の大通り》という作品は、よく見ると建物などが動物の体の中に透けて見えます。その稚拙な表現がこの画家の特徴です。玄人(くろうと)的な職人芸よりも素人的な素朴さをよしとする、という主張とでも言いますか。
感覚に直接的に働きかける表現手段として、色彩を重要なものとして考えていました。また、カンペンドンクについて言えば、マルクの動物画の影響も受けています。
客観的なリアルさよりも、自分の印象を大切にする表現を確立していくのですね。
――なるほど。
可愛いというか、親しみやすい感じもするこの独特の画風には、そのような背景があるのですね!勉強になります。
さて、次回はなぜカンペンドンクがフィリップス・コレクションに加わったのかをご紹介します!
お楽しみに!
◆会期:2018年10月17日(水)〜2019年2月11日(月・祝)
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