「ルドンー秘密の花園」展に寄せて 前編
美術愛好家の皆さん、ルドン・フリーク、三菱一号館美術館・ファンの方々、今日は。三菱一号館美術館 館長の高橋です。
2月8日に「ルドンー秘密の花園」展が開幕しましたが、世紀末フランスの画家オディロン・ルドンに関して、すでに当館では、2012年に一度、岐阜県美術館のコレクションを中心に「ルドンとその周辺―夢見る世紀末」という題で展覧会を開催しています。その際に、初めて国内でお披露目されたのが、皆さんもよくご存知の、当館の所蔵する画家後半生の最初の傑作《グラン・ブーケ》です。
今回の展覧会の発想は、実はこの《グラン・ブーケ》と出会った2008年、つまり三菱一号館美術館が開館する2年前に遡ります。本展覧会カタログには「グラン・ブーケ所蔵の顛末」という題で、私のインタヴュー記事が載っているので、そちらを読んでいただけばいいのですが、かいつまんでお話すれば、その2年前、私が上野の国立西洋美術館から丸の内に移り、一号館の立ち上げ計画に参加してコレクション形成に携わった際、まず最初に購入したのが200数十点のトゥールーズ・ロートレックのポスター、版画の一括コレクションであったことは皆さんご存知だと思います。
それを持っていたパリのある老舗画商の御曹司が、その後2008年の春に、ロンドンで「明也、素晴らしい絵があるんだ……」と言いながら私に見せてくれたのが、この《グラン・ブーケ》の写真や資料だったのです。
画像を一目見て私は、これが世にも稀なルドンの傑作であり、これほどの作品を取得できるのは、美術館員として千載一遇のチャンスであることを確信しました。そしてさらに作品が世間の眼には触れられないまま、ブルゴーニュ地方にある注文主ドムシー男爵の城の食堂に当時のままひっそりと置かれていること、同時期に描かれた残りの15点の装飾画は1978年に別人の手に渡った後、1988年に相続税の代物弁済としてフランス政府の所有となり、オルセー美術館に入ったことを知りました。
帰国後、私は少しずつ三菱地所の責任者の方々を説得して回りました。一号館は最初はコレクション形成を想定していなかった美術館でしたから、話はなかなか進みませんでしたが、ロートレックの作品群に引き続き、世界的な価値を持つ特色のある作品を持つことがいかに美術館の認知度を高め、企画のオプションも増やし、運営の戦略上有効であるかが、次第に会社の皆さんにも納得してもらえるようになりました。そして幸運にも次の年2009年の春、そして秋にドムシー城を訪れる機会を得ることができたのです。
初めて城の食堂の薄暗く重厚な空間の中に立った時、《グラン・ブーケ》は想像以上のオーラを放ち、輝いて見えました。少し高い壁に掛けられた画面は、薄明の中で、まるで大聖堂の中のステンドグラスにも似た光を放っているようにも感じられました……。その時私は、「この空間を再現した展覧会を開く」ことを決意したのです。
「ルドンー秘密の花園」展に寄せて後編に続きます。
◆「ルドンー秘密の花園」
会期:2018年2月8日(木)~5月20日(日)
詳細は「ルドンー秘密の花園」展サイトをご覧ください。
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