2026年春小企画展「ジャポニスムの季節Ⅰ――春」展示の背景
本展「ジャポニスムの季節Ⅰ――春」は、3部構成からなる小企画展シリーズの初回です。2011年の「もてなす悦び」展以来、まとめて公開する機会のなかった「デイヴィー・コレクション」※から、春の季語にもとづいて選び出した秀作をご紹介します。


展示には春を思わせる色彩を配しました。寒い時分に感じられる春の予兆や、咲きだした花々を柔らかく包む光、初夏に向かって眩しさを増す陽ざしなどをイメージしています。各展示ケースのなかには、季節の連想が高まるよう、春の季語を使った句を添えてあります。

まずは、デイヴィー・コレクションの作品群が制作されたのと同じ19世紀末に俳句改革運動を繰り広げた、正岡子規の句からスタート。銀器の表面に丹念に施された鎚目の凹凸模様が、春の光のきらめきを写すかのようです。
ひらひらと 蝶々黄なり 水の上 子規

この段々どこかで見た!と思われる方がいらっしゃるかもしれません。そう、じつは本展の施工には、2025年秋に開催した「アール・デコ」展から展示台を何点かお借りしました。かつて桜の季節に催された春の宴の余韻が、感じられるでしょうか。
さまざまの 事おもひ出す 桜かな 芭蕉

ここに配したのは、加賀千代女による、時の流れを感じさせる一句。時間が光のように速く過ぎ去っていくさまを、展示でも表したいと考え、銀のカトラリーからティーカップの持ち手までを、前方の小皿にのった小亀の首の方向にそろえてみました。
ももの花 我をわすれる 月日かな (加賀千代女)

デイヴィー・コレクションにはカップ&ソーサーが多く含まれます。この作品群が制作された19世紀後半の欧米では、上層中流階級の人々の間に茶会の習慣が広がり、室内での社交がさかんに繰り広げられました。その賑わいやさざめきが、不揃いに置いたティーカップから感じられるでしょうか。
鳥の羽に 見初る 春の光かな 樗良

春たけなわ。光の眩しさに初夏の訪れを感じるようになります。あの陽ざしを展示に採り入れたくて、ここで選んだのは、からし色に近いゴールドの素材。少しほてるような陽気のなか、さまざまな花の咲き誇る様子が、思い浮かぶでしょうか。
咲き満ちて こぼるる花も なかりけり 虚子

日本の俳句が初めて英訳されたのは、ラフカディオ・ハーンによる『異国情緒と回想』(1898年)においてのこと。このときハーンの選んだ一句が、松尾芭蕉の「古池や蛙とびこむ水の音」です。この銀器は1897年作。滑らかな表面に達筆な日本語で同じ句が刻まれています。
古池や 蛙飛びこむ 水の音 芭蕉
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