歴史資料室にて開催中「樹について」 作家インタビュー!④
皆さま、こんにちは。
本日は連続でご紹介している、三菱一号館・歴史資料室にて開催されている、個展「樹について」(~5月22日)
の作品の制作者である、田中彰さんのインタビューの続きです。(聞き手:当館学芸グループ長・野口玲一)
6、《古代よりの光、水、樹#1》
撮影:木奥惠三
Photo: Keizo Kioku
この作品は、色々な文化や考え方が海を越えて日本に入ってくる、外から入ってくるものが混ざりあって日本が
作られているという考えを作品にしました。僕の中で、海を越えて入ってくるものには共通のイメージがあります。
ヒマラヤスギは明治期(約130年前)に、日本に入ってきた外来種です。ヒマラヤスギを描こうと考え、
大きな木を探していて、東京のあちこちを歩いて旧岩崎邸(東京都台東区)
に行き当たりました。
手に持っているのは、シダーローズです。ヒマラヤスギは松科なので、松ぼっくりが出来るのです。
その形はちょうどバラの花のように見えます。絵の背景は《セビリアの聖母》の背景から引用しました。
下にはラテン語で「ヒマヤラの聖母」とあります。スギにはいろいろな意味があり、インドでは聖なる木として
扱われています。見る人によって作品の意味が異なると思います。
―旧岩崎邸は、三菱の3代目社長だった岩崎久彌の邸宅として建てられたものでした。
一号館も手掛けたジョサイア・コンドルの設計によるものです。思わぬところでつながりましたね。
7、《古代よりの光、水、樹#2》
撮影:木奥惠三
Photo: Keizo Kioku
震災の後、「いま何を伝えたら良いのか」と考えているときに、福島の汚染水のニュースをよく耳にしたのが
きっかけで生まれました。汚染水の話が浮かんでは消え、ということを繰り返しているうちに、「水」の大切さ
に思い至り、自分の中にある水についても改めて意識しました。
セビリアの聖母の時代にはなかった原子力について考え、キリストが今の世界に現れたらどのように感じるだろうか、
ということもテーマです。キリストは汚染水というものを知りませんから。
あるいは今後、生物にどのような影響があるのか、今起こっていることを後世に伝えたいと思いました。
水の中は人の世界ではないので、水中の生物が放射能を浴びて、どのようなことが起こっているのかわかりません。
また、この先に何か影響があるのではないか、ということも描いています。
―下に描かれているのは、ナマズでしょうか。
はい、外国の方に質問されたのですが、ナマズが地震を連想させるのは日本だけのようです。
ナマズが地震を起こすという信仰を説明すると、災害掲示の看板がナマズだったことを思い出して納得された外国の
方もいました。
この木版は、彫刻刀を使っていません。ウッドバーニングペンという特殊なペンで、焦がして焼きながら彫っています。
下絵を完全に作らず、描きながら考えるというスタイルです。
―普通の版画を作るよりも時間がかかるのではないでしょうか。
時間がかかりますし、どのような作品に仕上がるのか、想像できない部分があります。彫刻刀を使用する場合は、
彫り始める際に、あらかじめ完成をイメージして彫りますが、この手法では先が見えません。周りの状況に反応
しながら作品を作っています。
イメージも変化していくので、自分が魚を食べたら、その魚を作品に描きこんだりもしています。
―紙はざらざらした風合いのあるものですね。
ロクタという、ネパールの山岳民族が作った紙です。作った人の生活が垣間見える紙で、移動しながら紙を漉く、
彼らの生活にも共感しました。戸外で漉いているので、乾かす時に雨が降って濡れた跡などもあります。
均質でないので刷るにも工夫が必要で、手作業で、バレンを使って刷るしか方法がありません。その分、
紙と自分の関わりが強い紙です。
次回は最終回!
公式ブログトップへ