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三菱一号館美術館 公式ブログ 当館のイベントの様子や出来事をお知らせしていきます。

2016年4月15日

歴史資料室にて開催中「樹について」 作家インタビュー!③

皆さま、こんにちは。
本日は前回に引き続き、現在三菱一号館・歴史資料室にて開催されている、個展「樹について」(~5月22日)
の作品の制作者である、田中彰さんのインタビューの続きをご紹介いたします。
(聞き手:当館学芸グループ長・野口玲一)

5、《セビリアの聖母》(木版模刻)2015制作田中さん セビリアの聖母撮影:木奥惠三 
Photo: Keizo Kioku

この作品のもとになった「セビリアの聖母」は、1597年に長崎県の有家(ありえ)という場所で作られた、
日本で最初とされる銅版画(エングレービング)です。なぜその版画が作られたのか理由や起源に興味があり、
自分が模刻することで、作者の気持ちを追体験できるのではないかと考えたのです。

―エングレービングを木版で再現したということですね。

はい、木版で残す線の外側を彫っていき、銅版を反転するように彫りました。
元の作者が描いていない部分を表していくという作業です。描かれていない線を浮かび上がらせることで、
何かがわかるのではないかと思いました。

―木版ではなくて、銅板で再現することは考えなかったのでしょうか?

そっくりそのままの再現を目指すのであれば、転写をしてその通りに、彫っていくべきですが、
僕は技術的なことよりもむしろ、模刻という作業を通して作者が感じたこと追体験することが
重要と考えました。

もとの作品は一般公開されていないので、実際に観ることが出来ませんでした。そのため、いろいろな資料を集め、
過去に復元された作品を見比べながら、自分なりに鉛筆でスケッチをして、作品のイメージを作っていきました。
完全な模刻というよりも、絵を再び描き起こしているという感じです。トレースはしていません。それがむしろ、
最初の作者の行為に近いのではないかと思っています。
《セビリアの聖母》の原作者もすでにあった聖母の絵を写し取ってこの作品を作っているはずなので、「写し取る」
という行為は同じであったのです。自分もそれに近い感覚で作業を行いたいと。

―画そのものよりも、行為を再現するというところが面白いですね。
《セビリアの聖母》はポルトガルの宣教師が日本に持ち込み、それをキリスト教を学ぼうとした日本人たちが写した
ものなので、宗教的な動機がかなり大きかったわけです。そこにも興味があったのですか?

この時代に作られた版画は、版画がアートや芸術と呼ばれる以前のもので、人間の存在にかかわるような、
その原初的なあり方はとても大事なのではないかと思っています。もとの《セビリアの聖母》も当時は命がけで作った
ものだと思うので、そこに秘められている何かを感じてみたいと思いました。

―作品を作ってみていかがでしたか?

僕が模刻を通して感じたのは、この作品を作ったのは日本人だということです。線を追っていると、
西洋的な線ではなく平面的な線だったりして、ヨーロッパの人が作ったものではないな、と感じました。
また彫っていると解るのですが、模様などにあるリズムがずれていたりして、アバウトだなと感じました。
プロではないけれども、当時の作者が一生懸命つくったんだという感じも伝わってきました。

余談ですが、そうしたら上手くいくような気がして、聖母の鼻から始めたんです。
中心からどんどん広げていくようなイメージで彫っていきました。

刷り上がった瞬間、つまりイメージが紙に定着した瞬間に、時代を超えた何かが一緒に定着されたような気がして、
とても不思議な感覚でした。彫っている最中もこの模様は何を意味しているのだろう、キリスト教とはなんだろう、
なぜラテン語なのか、当時の人の気持ちに少し近づいたような気がしました。

―木版が美術として独立する前の状態に興味をもたれることが、大変興味深いです。
木版画家としてその世界の確立を目指すよりも、あえて未分化の状態に遡ろうとする思考が田中さんならではですね。

田中さん セビリア開錠込撮影:木奥惠三 
Photo: Keizo Kioku

【展覧会情報】
アートアワードトーキョー丸の内2015三菱地所賞受賞
「樹について」田中彰個展

◆会期:2016年3月4日(金)〜5月22日(日)
◆開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、会期最終週平日は20:00まで)
◆入場無料
◆休館日:月曜日(但し、祝日と5月2日、16日は開館)
◆会場:三菱一号館 歴史資料室
◆主催:三菱地所(株)
「詳細はこちら」からご確認下さい。
次回につづく

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皆さま、こんにちは。
本日は前回に引き続き、現在三菱一号館・歴史資料室にて開催されている、個展「樹について」(~5月22日)
の作品の制作者である、田中彰さんのインタビューの続きをご紹介いたします。
(聞き手:当館学芸グループ長・野口玲一)

5、《セビリアの聖母》(木版模刻)2015制作田中さん セビリアの聖母撮影:木奥惠三 
Photo: Keizo Kioku

この作品のもとになった「セビリアの聖母」は、1597年に長崎県の有家(ありえ)という場所で作られた、
日本で最初とされる銅版画(エングレービング)です。なぜその版画が作られたのか理由や起源に興味があり、
自分が模刻することで、作者の気持ちを追体験できるのではないかと考えたのです。

―エングレービングを木版で再現したということですね。

はい、木版で残す線の外側を彫っていき、銅版を反転するように彫りました。
元の作者が描いていない部分を表していくという作業です。描かれていない線を浮かび上がらせることで、
何かがわかるのではないかと思いました。

―木版ではなくて、銅板で再現することは考えなかったのでしょうか?

そっくりそのままの再現を目指すのであれば、転写をしてその通りに、彫っていくべきですが、
僕は技術的なことよりもむしろ、模刻という作業を通して作者が感じたこと追体験することが
重要と考えました。

もとの作品は一般公開されていないので、実際に観ることが出来ませんでした。そのため、いろいろな資料を集め、
過去に復元された作品を見比べながら、自分なりに鉛筆でスケッチをして、作品のイメージを作っていきました。
完全な模刻というよりも、絵を再び描き起こしているという感じです。トレースはしていません。それがむしろ、
最初の作者の行為に近いのではないかと思っています。
《セビリアの聖母》の原作者もすでにあった聖母の絵を写し取ってこの作品を作っているはずなので、「写し取る」
という行為は同じであったのです。自分もそれに近い感覚で作業を行いたいと。

―画そのものよりも、行為を再現するというところが面白いですね。
《セビリアの聖母》はポルトガルの宣教師が日本に持ち込み、それをキリスト教を学ぼうとした日本人たちが写した
ものなので、宗教的な動機がかなり大きかったわけです。そこにも興味があったのですか?

この時代に作られた版画は、版画がアートや芸術と呼ばれる以前のもので、人間の存在にかかわるような、
その原初的なあり方はとても大事なのではないかと思っています。もとの《セビリアの聖母》も当時は命がけで作った
ものだと思うので、そこに秘められている何かを感じてみたいと思いました。

―作品を作ってみていかがでしたか?

僕が模刻を通して感じたのは、この作品を作ったのは日本人だということです。線を追っていると、
西洋的な線ではなく平面的な線だったりして、ヨーロッパの人が作ったものではないな、と感じました。
また彫っていると解るのですが、模様などにあるリズムがずれていたりして、アバウトだなと感じました。
プロではないけれども、当時の作者が一生懸命つくったんだという感じも伝わってきました。

余談ですが、そうしたら上手くいくような気がして、聖母の鼻から始めたんです。
中心からどんどん広げていくようなイメージで彫っていきました。

刷り上がった瞬間、つまりイメージが紙に定着した瞬間に、時代を超えた何かが一緒に定着されたような気がして、
とても不思議な感覚でした。彫っている最中もこの模様は何を意味しているのだろう、キリスト教とはなんだろう、
なぜラテン語なのか、当時の人の気持ちに少し近づいたような気がしました。

―木版が美術として独立する前の状態に興味をもたれることが、大変興味深いです。
木版画家としてその世界の確立を目指すよりも、あえて未分化の状態に遡ろうとする思考が田中さんならではですね。

田中さん セビリア開錠込撮影:木奥惠三 
Photo: Keizo Kioku

【展覧会情報】
アートアワードトーキョー丸の内2015三菱地所賞受賞
「樹について」田中彰個展

◆会期:2016年3月4日(金)〜5月22日(日)
◆開館時間:10:00~18:00(祝日を除く金曜、会期最終週平日は20:00まで)
◆入場無料
◆休館日:月曜日(但し、祝日と5月2日、16日は開館)
◆会場:三菱一号館 歴史資料室
◆主催:三菱地所(株)
「詳細はこちら」からご確認下さい。
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