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プラド美術館展によせて

皆様こんにちは。
本日は、当館館長高橋が「プラド美術館展 ―スペイン宮廷 美への情熱」についてご紹介いたします。

「プラド美術館展」の名を冠した展覧会はこれまでにも我が国で2度開かれています。2002年に国立西洋美術館で開か
れたものと、2006年に東京都美術館で開かれたものです。しかし、今回私どもの三菱一号館美術館で開催される
「プラド美術館展」は前のふたつの展覧会とはかなり性格付けを異にしています。もちろん、プラド美術館の誇る世界
第1級のコレクションの中から注意深く精選された作品群であるという意味では、共通しているのですが、今回の展覧
会では作品の大きさがテーマとなり、小さなサイズの作品を中心に構成されているのが最大の特徴です。一般的に中世
以後、ルネッサンスを経てバロック時代に入ると、作品の注文主であった教会や宮廷の権威を増すかのように、作品は
どんどん大型化していきました。プラド美術館の収蔵品も多くは宮廷コレクションや教会・修道院にあったものですか
ら、その例に漏れません。けれども、この展覧会を監修したプラド美術館18世紀・ゴヤ絵画部長マヌエラ・メナ・マル
ケス氏は、「美術は詩や文学や音楽と同じように大きさや形式の問題ではない。本展を見終った後、いずれかの美術館
の展示室に行って大画面の作品の前に立ってみれば、それぞれの絵にはそれに相応しい大きさと生命があるのだという
ことを認識できるだろう」(カタログ p。17)とカタログの論文で述べていますが、まさしくその通りなのです。
例えば、今回来ているベラスケスの小さな風景画「ヴィラ・メディチの庭園」の深く爽やかな美しさは、あのプラド美
術館の展示室を離れることのない「ラス・メニナース」の永遠化された宮廷生活の一瞬の輝きに勝るとも劣らないので
す。

誤解を恐れずにもっと言えば、近代以前のオールド・マスターたちの多くは大工房を持ち、何人もの弟子や協力者とと
もに仕事をしていたために、しばしば大きなサイズの作品には画家本人以外の人々の手が介入しました。つまり逆に言
えば、画家自身が100パーセント自らの才能を傾注するのは小型作品の場合が圧倒的に多かったのです。それ故、今回
の展覧会の出品作品に見られる非常に高い質には驚くべきものがあります。海を越えて組織される国際展では保存上の
理由から通常あまり見られない板絵も今回30点以上が出品されました。カンヴァスとは異なり、磨き抜かれた肌理の細
かな画面では艶やかで微細なイメージが豊かに描かれ、隅々まで増殖していくかのようです。矛盾するようですが、こ
うした小さな画面ほど、描かれたその世界は豊饒さと深さを増していくのです。

実は、この展覧会は2013年にメナ氏の監修によってプラド美術館内で展覧会として催され、その後バルセロナでも公開
されました。マドリードでこの展覧会を観たとき、私は展覧会のコンセプトの明快さとオリジナリティーに大変強い感
銘を受け、直ちに東京でも公開したいと考えました。そして幾度かの討議を重ね、三菱一号館の特徴的な空間に相応し
い新たな作品構成が出来上がりました。いくつかの作品が入れ替えられたものの、展覧会全体の作品の質の高さは東京
展でも一貫して保持されています。
 
今回それが実現できたのは、ミゲル・スガサ館長を筆頭にプラド美術館のスタッフの熱心な努力の賜物です。本展覧会
すべての関係者の情熱によって実現した、「プラド美術館展―スペイン宮廷 美への情熱」展を三菱一号館美術館の親密
な展示空間でお楽しみ頂ければ幸いです。
                                
                                     三菱一号館美術館館長 高橋明也
ぷらどちらし

 

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