上野リチ展を終えて
多くの方がご来館くださった「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」は、5月15日に閉幕いたしました。80日間の会期でしたが、なんと10万人以上の方々にお越しいただくことが出来ました。ご来館くださった皆さま、どうもありがとうございました。
2010年の開館以来、「KATAGAMI Style」展、「画鬼・暁斎」展、「PARIS オートクチュール」展など、新しい視点の展覧会を開催してきた当館としても、「上野リチ・リックス」という、現在ではほぼ無名となってしまっていたデザイナーを取り上げることは、なかなか勇気のいることでした。
実際、展覧会前にTwitterで行ったアンケートでは、上野リチをご存じの方は殆どいらっしゃらず不安になったものでした…。展覧会が開幕してから徐々にお客様が増え、会期終盤で再度行ったアンケートでは最近知った方も含めると、約半数の方がリチを認識しているという結果となりました。(回答数も200人程度から1,000人以上の方がご回答くださいました)
最終週は入場までお待ちいただく日も出て、美術館としては申し訳ないやら、反対に嬉しいやら…。展示室の様子も絵画の展覧会とは少し異なり、ファッションやデザインに携わる方が多かったようで、すてきなプリントのドレスにおしゃれな組み合わせのスーツの方など、多彩な装いをお見かけしました。
Café 1894で販売していた展覧会タイアップランチ。
《プリント服地[野菜]》を参考に考案されました。
展覧会の準備はなかなか大変でしたが、SNSやアンケートでの感想は「かわいい」、「癒された」、「作ってみたくなった」、といった前向きなコメントが多く、拝見していると励まされると同時に、皆さんと一緒に展覧会を作っているという気持ちになりました。
本展では、初めての試みもあれこれ行いました。例えば、A3版の二つ折りのチラシでは、当館のTwitterとInstagramで人気投票を行い、《プリント服地[野菜]》を、もともとのメインビジュアルである《プリント服地デザイン:ボンボン(2)》と組み合わせるというスタイルを取り入れ、ビジュアルの決定を皆さまにお任せしてみました。
メインビジュアルを使用したフォトスポット。
以前、本ブログでもご紹介した、作品に随行する「クーリエ」。本展覧会は新型コロナウイルス感染症のため、海外からのクーリエは来られませんでした。本来であれば、展示作業及び撤収作業には、ウィーンのMAK-オーストリア応用芸術博物館と、ニューヨークのクーパー・ヒューイット スミソニアン・デザイン・ミュージアムから、少なくとも一人ずつ、クーリエがいらっしゃるはずだったのです。
そのかわり、われわれが成田空港と羽田空港まで作品を迎えに行き、美術品専用車に同乗して館まで輸送し、搬入を行いました。その後は、ウィーン、ニューヨークとオンラインで結んで、お互いにスマートフォンの映像を見ながら、展示時には、開梱・点検・展示を、撤収時には、撤去・点検・梱包を行っています。
作品を帰国させるため、美術品専用車に同乗して空港までの輸送も行いました。世界中を覆う新型コロナウイルス感染症という、未曽有の事態がなければ、体験することのないことの連続でした。
MAK-オーストリア応用芸術博物館とのスマートフォンを使用しながらのオンライン撤収作業の様子。
ようやく6月の初めに、海外及び国内から借用した作品はすべて戻るべき場所に収まり、当館の上野リチ展チームもほっとしているところです。
ウィーンとニューヨークから、「この企画ができてよかった、また一緒に何かやりましょう!」というメールも届きました。数百点の作品を拝借した京都国立近代美術館を始めとして、貴重な作品をお貸しくださった国内の美術館にはいくら感謝してもしきれない思いです。
ところで、当館での「上野リチ」展は終わりましたが、リチ展でも作品をお借りした、愛知県の豊田市美術館では「機能と装飾のポリフォニー」展が開催されています。
豊田市美術館外観。
この展覧会は、20世紀初頭に展開した、さまざまなジャンルの芸術・工芸の交流と拡散のありさまを、「モダン」という概念を起点として検証する展覧会です。
「上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー」で展示されたリチやヨーゼフ・ホフマンの作品も登場します。リチ展にいらした方も、見逃した方も、今年はリチに出会える機会がまだまだありそうです!
三菱一号館美術館では今後も、当館でなければ見られないような、皆さんに楽しんでいただける展覧会を企画していきたいと思っています。どうぞお楽しみに!
クーパー・ヒューイット スミソニアン・デザイン・ミュージアムに戻る上野リチ作品を載せたニューヨーク行きの飛行機。
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