初老耽美派のひと言おしゃべり未来の美術館番外編2

初老耽美派とは、生年月日が同じ冨田章氏(東京ステーションギャラリー館長)と山下裕二氏(明治学院大学教授)が還暦を迎えた2018年、5歳年長の高橋明也(三菱一号館美術館館長)とともに結成した3人の美術史家のユニットです。そのただ一つのモットーは、「ぼーっと仲良く美術作品を眺める」こと。その初老耽美派の肩の力の抜けたおしゃべりを3回にわたってお届けします。

美術館の価値とスマホの価値

初老耽美派のひと言おしゃべり未来の美術館番外編2

山下 この10年で美術館を取り巻く環境もかなり変わったよね。みんながスマホを持つ時代になった。

冨田 美術館の価値とスマホの価値って対照的なところにあるよね。

高橋 最近は美術館とSNSもかなり連動してきているけれどね。パブリシティーとして、写真をSNSにアップして拡散してもらうことで、多くの人に足を運んでもらえることもある。

山下 そうね、だからインスタ映えする展覧会は大入りになったりする。

冨田 でも、せっかく実際に会場に足を運んでも、画面越しに写真を撮るだけで満足して、自分の目で見ていないなんてこともあるんだよなあ。

山下 だけど、たとえば若冲のあの超絶技巧はスマホの小さな画面では、そのすごさは絶対に分からないよ。

高橋 実物だけが持つアウラは、写真じゃ映らない。

山下 美術を見て楽しいとか面白いと感じられるようになるには、目の記憶、つまり自分の目玉でいかに本物を見てきたかの蓄積に依るところがあるから、スマホ頼みだと、なかなか難しい。

高橋 これからは、いかにスマホとうまく共存していくかも美術館にとっては大きな課題だね。

冨田 今後は予約制の展覧会や美術館がもっと増えてくるはず。今は、予約制の展覧会を開催すると、高齢者からインターネットを通じてチケットをとるのが大変という声をよく聞くけれど、10年後の高齢者はきっとスマホも使いこなしているはずだからね。

高橋 美術館や展覧会では、会場を結構歩かなくちゃいけないじゃない。だから高齢者にとってはけっこういい運動になるはずなんだよね。引きこもりがちなお年寄りが外に出てくる、いいきっかけにもなる。

冨田 たしかに美術作品は、本のように取り寄せて見るということができないからね。美術鑑賞は足を使わなくちゃならない。

山下 どんなテーマがいいんだろうね。やっぱりエロかな(笑)?

高橋 エロに限らなくてもいいんじゃない(笑)。この年になると、色々なものを捨てていくじゃない。物も欲も。

冨田 初老になるとね。

高橋 そんななかで残るのは、本能だと思うんだ。やっぱり本能を満たしてくれるようなものは、見たいと思うんじゃない? エロももちろん本能だけれど、美しいと感じる心も立派な人間の本能だよ。

冨田 役には立たないけれど、美術は本能は満たしてくれる。

山下 スマホでは我慢できない、本能がうずく展覧会。見たいですねえ、そんな展覧会。

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