本展の見どころ

ドムシー男爵の食堂装飾《グラン・ブーケ》

《グラン・ブーケ(大きな花束)》は、ロベール・ド・ドムシー男爵(1862-1946)の城館を飾った16点の壁画のうちの1点です。1893年にルドンと面識を持った男爵は、城館の大食堂の壁面全体を覆う装飾をルドンに任せます。計画はネオ・ゴチック様式の食堂の壁面全体を覆う大規模なもので、ルドンは総計で36㎡を下らない巨大な壁面を、当初は18分割することを考えました。現在では16点の装飾画が残されています。

1年以上の制作期間を経て、16点の装飾はブルゴーニュ地方のヴェズレー近郊にある男爵の城館に運ばれ、設置されました。そしてその後は、人目に触れることが全くありませんでした。
しかし、16点のうち《グラン・ブーケ(大きな花束)》を除く15点の壁画は、1980年に日本で公開されました。そして1988年には“相続税の美術品による物納”制度によりフランス共和国が取得、現在ではオルセー美術館が収蔵しています。その後は装飾画の中心的な存在だった《グラン・ブーケ》のみが、男爵家の大食堂に残されたままでした。

《グラン・ブーケ》は、その壮麗さという点において、際だっており、ドムシー男爵城館の装飾画の中で、そしてルドンの装飾壁画作品全体を通しても、最も重要な作品の一つと言っても過言ではありません。
2011年の3月にパリではじめて一般に公開され、大きな反響を巻き起こした《グラン・ブーケ》は2012年に三菱一号館美術館で開催した「ルドンとその周辺-夢見る象徴主義」展で初めて公開されました。

この装飾画の後、ルドンは個人の装飾画の注文を多く受けるようになりました。パステルで描かれた作品として類例のない大きさの《グラン・ブーケ》をはじめとするドムシー男爵の食堂装飾は、ナビ派の装飾画の数々や、ルドンの一連の大型装飾画、モネの「睡蓮」の大装飾画など、近代から現代に及ぶ「装飾」芸術の大きな流れの中に位置づけることができるものです。

《グラン・ブーケ(大きな花束)》1901年 パステル/カンヴァス 248.3×162.9cm
三菱一号館美術館蔵

[ドムシー男爵の城館の食堂壁画15枚のうち]
A.《黄色い背景の樹》249.5×185.0cm/B.《人物》244.5×58.5cm /C.《人物(黄色い花)》243.5×58.0cm/D.《黄色い背景の樹》247.5×173.0cm/E.《ひな菊》123.0×149.5cm/
F.《花とナナカマドの実》123.0×152.0cm/G.《花のフリーズ(赤いひな菊)》35.0×165.5cm/H.《花と実のフリーズ》35.0×163.5cm
以上すべて、1900-1901年 木炭、油彩、デトランプ/カンヴァス オルセー美術館蔵
Photo©RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF

ルドンと「装飾」

ルドンは1870年に北仏の町アラスの礼拝堂内に、壁画を描く仕事を請け負っていますが、第一次世界大戦で破壊されてしまい、現存していません。ドムシー男爵の城館の食堂装飾は、現存作品では最初の本格的な装飾画ですが、着手した時、ルドンは既に60歳の誕生日を過ぎていました。ルドンの装飾画は1900年から1911年までの間に集中しており、そのうちのひとつが《オリヴィエ・サンセールの屏風》です。
ルドンは厭世的な孤高の画家というイメージがありますが、政府からの制作注文を得るために、積極的に行政に働きかけていました。公的な注文はほとんど得られなかったルドンですが、美術行政の長が前衛的な画家の試みに比較的寛容であった20世紀初頭には、ゴブラン織りの下絵の注文を受け、椅子や衝立が制作されています。

  • ロラン・ルスタン(ルドンの下絵に基づく)《衝立》1908-1910年(タピスリー)1921年(木部分) ゴブラン織(ウール、絹)/シカモア 131.0×95.0×37.0cm モビリエ・ナショナル蔵 Mobilier national, Paris 

  • 《オリヴィエ・サンセールの屏風》1903年
    テンペラ、油彩等/カンヴァス 169.0×220.0cm
    岐阜県美術館蔵 

ルドンの妻カミーユはパリから東およそ100kmに位置するビエーヴルに異母姉からヴィラを相続しました。ルドンもたびたび訪れ、1910年代はこのヴィラの庭に咲いた花々をモデルに描いています。

《野の花のいけられた花瓶》1910年頃
油彩/カンヴァス55.9×39.4cm
NGA ナショナル・ギャラリー、ワシントン蔵
National Gallery of Art, Washington, Alisa Mellon Bruce Collection, 1970.17.56