本展の見どころ

色彩への移行

初の版画集『夢のなかで』が1879年、ルドン39歳の時でした。これを機に1880年代のルドンは、 世間から「黒」の画家として認知されていましたが、油絵による小品を制作し続けていました。ルドンはこれらの小型の風景画を「作者のためのエチュード」と呼んで発表しなかったため、画家の生前にはほとんど世にでることがありませんでした。1894年に印象派を取り扱っていたデュラン=リュエル画廊で、出品点数140点を超える最初の大個展を開催した時、ルドンは油彩9点、パステル10点を発表しています。その後はパステル、次いで油絵の制作比率が高まり、やがて「黒」は完全に姿を消すものの、植物のモティーフは変わることなく描いていました。

  • 《青空の下の木》1883年頃 油彩、黒鉛/紙(板に貼付) 30.0×24.0cm
    ニューヨーク近代美術館(MoMA)蔵 The Museum of Modern Art, New York. Gift of The Ian Woodner Family Collection, 2000
    ©2017 Digital image,The Museum of Modern Art, New York/ Scala, Florence

  • 《ペイルルバードのポプラ》制作年不詳 油彩/厚紙(板に貼付) 25.0×19.0㎝ 岐阜県美術館蔵

  • 《メドックの秋》1897年頃 油彩/カンヴァス 33.5×41㎝ ボルドー美術館(オルセーより寄託)
    ©Musée des Beaux-Arts - Mairie de Bordeaux.
    Cliché  F. DEVAL

《眼をとじて》1900年以降 油彩/カンヴァス 65.0×50.0cm 岐阜県美術館蔵

《眼をとじて》

水平線あるいは地平線に浮かび上がるような瞑想的な女性の頭部を、ルドンは1898年ごろから描きはじめています。花がちりばめられた本作品は、華やかで動きのある色彩が画面に響いています。

《神秘的な対話》

洗礼者ヨハネの母エリザベツを聖母マリアが訪問するという伝統的なキリスト教の図像を下敷きにしています。ルドンはここに描いた花々について「一つの植物相を示す」とも記しています。また本作品は、ドムシー男爵の旧蔵品です。

《神秘的な対話》1896年頃 油彩/カンヴァス 65.0×46.0cm 岐阜県美術館蔵

晩年のルドンは、蝶や蛾と花の形態が類似していることをうまく作品に取り込み、まるで蝶と花が戯れるような創造力を発揮しています。これらの作例のうちでも、形態の類似性を意識的に探究していたと思われるものの一つが《蝶と花》です。
《蝶》では水辺の岩場に集まった蝶と蛾に紛れて、一輪の白い花が描かれています。よく見ると花ですが、遠くから見ると蝶なのか、花なのか、判然としません。ルドンの絵にはこうした曖昧な部分がみられ、鑑賞者には多様な解釈が許されています。

(左)《蝶と花》1910-1914年 水彩(木炭?)/紙 24.0×15.7cm プティ・パレ美術館蔵 ©Petit Palais / Roger-Viollet
(右)《蝶》1910年頃 油彩/カンヴァス 73.9×54.9cmニューヨーク近代美術館(MoMA)蔵 The Museum of Modern Art, New York. Gift of The Ian Woodner Family Collection, 2000 ©2017 Digital image,The Museum of Modern Art, New York/ Scala, Florence