館長対談

館長対談 vol.13

ゲスト

大宮エリーさん

館長対談 vol.13ゲスト 大宮エリーさん

目に見えないものを伝える絵の力

脚本家、エッセイスト、コピーライター、脚本家、CM ディレクター、映画監督、ラジオパーソナリティなど、多彩な顔をもつ大宮エリーさんをお招きした今回の館長対談。大宮さんは、近年では画家としても精力的に活動し、昨年は十和田市現代美術館で個展「シンシアリー・ユアーズ ― 親愛なるあなたの 大宮エリーより」展を開催。今年は、「道後オンセナート2018」のプレオープン企画に参加し、道後プリンスホテルの客室を花が咲く草原に包まれ、”生 ”のエネルギーに満ちあふれた空間を作り上げました。当館館長・高橋明也とは、「プラド美術館展」開催の折に対談をするなど、気心の知れた仲。植物が大好きという大宮さんと館長の息の合ったおしゃべりは、ルドンの魅力から絵がもつ力まで、どんどん奥深いお話となっていき……。

ルドンと大宮エリーの世界って近い気がする
— 高橋館長

《グラン・ブーケ》って天国の宮殿の入り口に置いてある花みたい
— 大宮エリー

オディロン・ルドン《グラン・ブーケ(大きな花束)》
1901年 パステル/カンヴァス 248.3×162.9cm 三菱一号館美術館蔵

高橋大宮さんと三菱一号館美術館の出会いは、「ルドンとその周辺―夢見る世紀末」展(2012年開催)でしたよね。あのとき、宣伝物のコピーを書いてくれたのが、大宮さんでした。「あの!幻の!“グラン・ブーケ”がやってきた!!! やったね!日本初公開!!!」と、およそこれまでの美術展では使われてこなかったキャッチーなコピーを作ってくれました。そのキャッチーさが世間では騒がれてしまったけれど、40日程度の短い会期の展覧会だったので、「気を引きたい」というコンセプトに応えて頂いたと思っています。実際「やったね!」という気持ちでしたし(笑)。

大宮ちょうどそのころ、ルドン展のチラシやティザーサイトのアートディレクションをしていらした北川一成さんと、別件のお仕事をしていたんです。「ルドン展のコピーを書く人がいないから、やってみない?」と言われて。そのご縁で、銀座gggで開催したわたしの個展にも、館長にゲストで来ていただきましたよね。

高橋そうそう。あのとき初めて大宮さんの絵を見て、すごくいいなと思ったんですよ。

大宮わたしは美大を出ていないし、正統な美術教育も受けていないので、館長のような美術の世界にいらっしゃる方、しかも、ちょっと尖んがっている方に絵を褒めていただいて、すごくうれしかったんです。

高橋僕、尖がってないけれどなぁ(笑)。初めて大宮さんの虹の絵を見たとき、すごくいい!ってピンときたんですよ。僕は原初的な絵に心を打たれるんです。もちろん絵って、頭で構成する造形でもあるんだけれど、あまり頭でっかちすぎると、つまらない。絵画にとっていちばん大切なことって、自発力だと思うんですよね。大宮さんの絵を見たとき、それを感じたんですよ。エネルギーというか回転数がすごくてね。

「希望の海」
2015 acrylic on canvas

大宮館長が気に入ってくださって、「館長室に飾りたい!」って言ってくれた虹の絵は、十和田市現代美術館で開催した「シンシアリー・ユアーズ」でも展示しました。ちょうど熊本の地震があった直後だったので、遠くからでも祈りが届くようにという想いを込めて《Sea of Hope》と名づけたんです。あっ、館長、いつでもあの絵、買ってくださっていいんですよ。おかしいなぁ、まだ注文いただいていないですけれど(笑)。

高橋あっ、そうだっけ?(笑)ともあれ、ルドンと大宮エリーの世界って近い気がして。

大宮それはうれしい!でも、どうしてそう思われるんですか?

高橋たとえば、ルドンの《グラン・ブーケ》に描かれている花って、似たような花はあっても、同定はできないらしいんです。ルドンは植物学者とも親しくしていたから、植物には詳しかったはずなんだけれどね。ルドンの描く花は、ひとつとして同じものがなくて、どこかこの世のものとは思えない。大宮さんの絵の世界観も、現世ではない世界と交信しているような、どこか浮世離れしている感じがするんです。

大宮たしかに《グラン・ブーケ》って、天国の宮殿の入り口に置いてある花みたいです。今世で一生懸命頑張ってきた人たちを「お帰り~」って迎えてくれるような、そんな花。お金持ちの家に飾ってある花でもなく、結婚式の花束でもなく……。

高橋天国の「迎え花」か、それはいいねぇ。《グラン・ブーケ》には、右側にわずかに淡いブルーが透けている部分があって、これが僕には空に見えるんです。

大宮じゃあ天国の花というのも、あながち間違っていないかも?これ、とうてい地上の風景じゃない気がします。少し怪しげでもあるし。でも祝福されている感じはするなぁ。

高橋僕は最初にこの絵を見たとき、仏画のように感じたんです。天から降る散華を背景にした国宝の『普賢菩薩像』(東京国立博物館蔵)という平安仏画のあのイメージ。ルドンは仏陀をモティーフにした作品も残していますしね。

大宮わたしも最近、仏像の絵を描いてみたいなと思っているんです。

高橋《グラン・ブーケ》は、フランス・ブルゴーニュ地方のドムシー城の食堂で長いあいだ秘蔵されていたので、研究者のあいだでもほとんど知られていない作品でした。そして、当館の所蔵となり世界で初めてお披露目されたのが、あの東日本大震災からわずか10日後、パリのグラン・パレでのことでした。僕は日本から離れたくなかったけど、パリに飛び、開会式に行くと皆が地震と原子炉被災のニュースを知りたがり、まるでスポークスマンのように状況説明をさせられたな。なんだか凄い体験でした。それから1年後、三菱一号館美術館で初公開したときには、この絵の前に佇んで、お祈りしている人を何人も見かけました。「そうか、《グラン・ブーケ》はそういう絵なんだな」と不思議と腑に落ちた。この絵は、食堂を飾る16点の装飾画のなかの1点で、パステルを使った技法、青い花瓶を中心に据えた構図、その鮮やかなブルーの色彩、全てにおいてほかの15作品とはまったく違う。なんだか“ご本尊”みたいな感じがしてね。

大宮“ご本尊感”、ありますよね。それに、クラシックとかじゃなくて、お鈴(りん)の音色が似合いそうな絵。わたしは、「どんな絵を描きたい?」って聞かれると、『フランダースの犬』のネロ少年が観た最後の絵って答えるんです。

高橋ルーベンスの《キリスト昇架》?

大宮ええ。人生最期のとき、ご飯を食べるよりも何よりも、観たいと願う絵。救いのある絵とでも言ったらいいかしら。《グラン・ブーケ》にもそんな力を感じます。見ていると浄化されていくイメージです。

高橋花という存在自体にもそういう力があるよね。今回の展覧会には「秘密の花園」という副題をつけたんだけれど、去年、渋谷のヒカリエ(8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery)で開催された大宮さんの個展も、同じタイトルだったと、さっき気づいてビックリ。まったくの偶然で、しかも今回の対談で声をおかけしたときときには、まったくそこに思い至ってなかったの(笑)。僕、その個展にもうかがっているのに。

大宮わたしは小さいころ、植物園の園長さんになりたいと思っていたくらい、植物が好きなんです。それでギャラリストの小山登美夫さんから花の絵をメインにしたいと言われたので、「Secret Garden」という展覧会名にしました。草花は、わたしにとって強いインスピレーションの源です。たとえばハボタンをのぞいてみると、葉脈の形もすごくユニークだし、色のグラデーションがほんとに絶妙でうっとりしちゃう。

高橋わかる、わかる。食虫植物なんかもすごいよね。デザインも精巧だし、虫を捕るメカニズムも完璧で驚く。

大宮神様って、なんてすごいアーティストなんだろうと思います。

「十和田の冬」
2016 acrylic on canvas